広島のナオライ、第3の和酒「浄酎」に挑む

山陽新幹線を福山駅で降りて車で北へ約1時間。広島県東部の神石高原町は鉄道や高速道路が通らない山あいの町だ。ここに築100年を超す旧酒蔵を活用した「浄溜所」がある。スタートアップのナオライ(広島県呉市)が日本酒、焼酎に続く第3の和酒と位置づける「浄酎(じょうちゅう)」を製造している。
浄酎とは日本酒をベースとして造られる新しいお酒だ。純米酒を真空状態のセ氏35~40度の低温で蒸留し、アルコール分を抽出する。1日の抽出で100リットルの日本酒は40リットルまで減るが、日本酒の香りやうまみは損なわれないという。
アルコール度数は41度。このままでも完成品だが、ウイスキーのようにオークやミズナラのたるを使って1年以上寝かせたものもある。ストレート、ロック、水割りなど様々な飲み方が可能だ。
酒販店や飲食店のほか、自社サイトでも販売している。オンラインの価格は、ブレンドした純米酒を使った「白紙垂(しで)」が710ミリリットルで1万1900円、仕入れた純米酒の個別の酒蔵を指定した「銀紙垂」が1万2900円。アメリカンホワイトオーク樽(だる)で熟成させた「金紙垂」は1万4900円。
社長の三宅紘一郎さんは「千福」の銘柄で知られる酒蔵、三宅本店(呉市)の創業家の親戚にあたる。自らも中国への日本酒輸出を担っていたが、市場拡大に限界を感じた。「新しいブランドの日本酒が必要だと痛感して帰国した」という。
2015年にスタートアップのナオライを設立。農産物の加工技術などを日本酒に応用する形で浄酎にたどりつき、19年に「神石高原浄溜所」を構えた。21年に新卒でナオライに飛び込んだというプロジェクトマネージャーの竹沢元哉さんは「すべてゼロからのスタートなのが大変でもあり、楽しいところでもある」と話す。
浄酎をつくるメリットは多い。日本酒は新しさが命で、徐々に劣化していく。温度管理も必要になるため、輸出へのハードルは高かった。浄酎にしてアルコール濃度を高めることで、常温のままで輸送が可能になる。
そして全国の様々な酒蔵と仕入れを通じて組めることだ。1970年代に3千を超えていた酒蔵は日本酒の消費減や後継者不足で1100余りまで減少。ナオライは酒蔵から余った酒を仕入れるほか、神石高原町の有機米を原料として酒蔵に同社向けの酒を造ってもらっている。酒蔵にとっては大きな取引となる。

現在組んでいるのは広島4社、島根1社の合計5社。このうちの1社「向井櫻」で知られる向原酒造(広島県安芸高田市)の杜氏(とうじ)、渋川健さんは「自社をPRするいいきっかけになり、今回の取引にヒントを得て新ブランドの酒も出した」と話す。
浄酎の22年の生産は約4000本の見込み。三宅さんは全国に「浄溜所」を広げていく構想を持つ。酒蔵の再生を通じ、「農家を含め地域全体を潤していきたい」と話す。
(広島支局長 長沼俊洋)

[日本経済新聞電子版 2022年10月6日付]
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