宮崎・都農ワイン ブドウ栽培、多雨と悪土壌を克服

宮崎駅から日豊本線に乗り都農駅で降りた。都農町は尾鈴連山と太平洋の日向灘に囲まれた場所で、農畜産業が盛ん。地元産ブドウを使った日本ワインを醸造する都農ワインは駅から車で10分。小高い丘にある。
「ここまでこられたのは先人のたゆまぬ努力のおかげ」と小畑暁社長は醸造所と販売所を兼ねるワイナリーで振り返る。「雨の多い地域はブドウ栽培に適さない」というのが専門家の常識。同町で栽培が始まったのは第2次世界大戦終戦の直後。高値で取引されるブドウ栽培に進出することで、農家の所得向上を図るのが狙いだった。
栽培が難しいのは、湿気が多いと細菌が繁殖しやすく、ブドウが病気にかかりやすくなるためだ。同町は世界のブドウ産地に比べ、5倍以上の年間降水量があるという。当時の宮崎は「台風銀座」ともいわれ、毎年のように繰り返される被害も深刻だった。
ブドウの生育に重要な要素となる地質も火山灰土壌。排水性はよいが、ブドウの生育に欠かせないカルシウムやマグネシウムなどのミネラル分が不足していた。
しかし、農家はくじけず排水対策など棚作りの工夫や防風林の整備、ビニール栽培、堆肥を使った土壌改良などの対策を次々と講じ、同町は特産「尾鈴ぶどう」の産地として県内外に知られるようになった。
ブドウ栽培の成功を、さらに着実なものとするため、同町は都農ワインを設立。様々な研究や実験を積み重ね、1996年から醸造をスタートさせた。
小畑社長は北海道旭川生まれ。帯広畜産大学大学院修了後、青年海外協力隊員として南米のボリビアで、農産物加工に携わる。帰国後、清涼飲料メーカーに就職し、海外事業部に配属され、再び南米のブラジルに出向し、ワイン造りに没頭した。
95年に帰国したが、部署は品質管理。ワインを造りたいという気持ちは募るばかりで、「南米ワイン熱にかかった」という。そんななか、都農町の話を聞き込んだ。矢も盾もたまらず辞表を出し、プロジェクトに飛び込んだ。それまで「宮崎とは全く縁がなかった」と笑う。
努力も実り、都農ワインは、多くの賞を獲得するなど国内外から評価されるようになった。2022年9月には、新事業としてベーカリー事業をスタートさせた。ワイナリーの2階部分を改装し、80席分のスペースのあるカフェをオープンした。「ベーカリー事業は長年の夢」(小畑社長)だったという。
店内の大きなガラス張りの窓や、テラスからは、日向灘と都農の街並みを一望できる。地元産木材を使用したカウンター席もある。販売中の大半のワインの試飲が可能だ。商品はワインの味を引き立てる総菜パンを中心に約30種類が並ぶ。
「チャレンジを忘れない」のが都農ワインのモットー。新年を迎えた酒として、逆境を克服したワインを味わうのもいいのかもしれない。(宮崎支局長 武内正直)

[日本経済新聞電子版 2023年1月5日付]
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