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群馬の土田酒造シン・ツチダ 伝統回帰の自然派清酒

NIKKEI STYLE

日本百名山の一つ、武尊山(ほたかやま)の南麓に土田酒造(群馬県川場村)は蔵を構える。「誉国光(ほまれこっこう)」などの地酒で知られた老舗だが、近年は酒造りの方法を刷新。江戸時代の伝統的な製法を採り入れながら、土地の恵みを生かした「自然派」の新たな清酒を生み出した。

川場村を代表する観光名所、道の駅・川場田園プラザから車で約5分。土田酒造の敷地には武尊山からの伏流水が流れる。この軟水は酒の仕込みに使われている。

「酒造りに多くの制約を設けていますが、だからこそ、その中でいろいろな方法を試してみたくなるんです」。30代の若い杜氏(とじ)、星野元希氏は笑みをみせながら蔵を案内してくれた。

同社では群馬県産の飯米(食用米)を使い、酒米は使わない。コメはほとんど磨かない。発酵には蔵にすみ着いた菌を使い、乳酸など表示義務のないものも添加しない。現代のセオリーにのっとらない手法にこだわる。

以前の醸造法を切り替え始めたのは10年近く前。ゲーム会社勤務の経験を持つ6代目の土田祐士社長が星野氏と二人三脚で世界に通用する酒を求め研究を開始。星野氏は教えを請いにほかの蔵へ出向くこともあった。

たどり着いたのが天然の乳酸菌を使う伝統的な「生酛(きもと)」造り。ただ、自然の菌を使うと製造管理が難しくなる。このためIT(情報技術)機器などを駆使。麴(こうじ)室の温度変化などログ(記録)をとって、ビジネス対話アプリで情報共有する。江戸時代の製法を最新テクノロジーで支える。

こうして蔵を代表する新たな酒「シン・ツチダ」が2020年に誕生した。原料は地元の水とコメ、麴のみ。精米歩合を90%にとどめ、コメの風味をしっかり感じられる味わいに仕上がった。

酒造りの探求は今も続く。海外で一般的な長粒種のコメ(群馬県産)で造った酒を21年夏に発売。現代ではホーロー製などのタンクが一般的だが、22年からは地元のスギで造った昔ながらの木桶(おけ)を使い始めた。無農薬米の栽培にも自ら挑戦する。

ワインの世界では有機栽培ブドウを使う「ナチュール」などの概念が定着している。土田酒造は日本酒の世界に伝統的な製法で「自然派」のジャンルを築こうとしているかのようだ。

21年11月下旬、土田酒造は高級ホテルの白井屋ホテル(前橋市)と組んで食事会を初めて開催した。参加者はまず酒蔵を見学し、その後に酒と料理のペアリング(組み合わせ)をホテルで楽しんだ。同社は地域おこしのため地元で酒蔵ツーリズム協議会を設立するなど、以前から見学者を積極的に受け入れてきた。

製法の研究や見学受け入れには、醸造技術や人口減少が進む周辺地域を後世に残したいという土田社長の思いが込められている。「自分たちが楽しみながら、おいしさを追求している姿を次世代にみせたい」としており、今後も新たな酒造りに挑戦していく考えだ。

(前橋支局長 古田博士)

[日本経済新聞電子版 2022年2月3日付]

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