シンガポール 屋台コーヒー、値上げにほろ苦さ

シンガポールのコーヒーは大きく2つのタイプに分けられる。一つはスターバックスなどの国際的なチェーン店やしゃれたカフェなどで出される現代的なコーヒーで、価格は1杯6~8シンガポールドル(約600~800円)前後。もう一つが屋台や「コピティアム」と呼ばれる食堂が提供する昔ながらの「コピ」だ。
コピは深煎りで苦めの濃厚な味わいが特徴。そこに甘い練乳を入れるのがスタンダードだ。ミルクなし・砂糖入りの「コピ・オ」、無糖練乳入りの「コピ・シ」など好みでアレンジもできる。値段はスタバの4分の1から5分の1と、安さが魅力だ。
しかしここへ来て、庶民の力強い味方のコピティアムで値上げが目につくようになった。
「たった10シンガポールセント(約10円)の値上げでも、毎日の出費だから懐が痛いよ」――。電子機器メーカー勤務のオン・ヘンセンさん(50歳男性)は嘆く。オンさん行きつけのコピティアムでは今年、コピの価格が上がり、1.3シンガポールドル(約130円)になった。1回の上げ幅は小刻みでも上昇が続いており「4~5年前は1シンガポールドルでおつりが来た。それから4割値上がりした」という。
近年のカフェブームでこだわりの豆の専門店などが急増する一方、伝統的なコピの人気も根強い。出勤前のカフェイン補給に1日1杯のコピを欠かさない人も多い。オンさんは「ぜいたく品なら節約すればいいが、コピは必需品」と話す。
コスト上昇が値上げの原因だ。ロシアのウクライナ侵攻の影響でガス・電気料金が高騰。シンガポール金融通貨庁によれば、6月のガス・電気料金の価格は1年前の20%増しだった。コーヒー豆の価格は産地の天候悪化や供給網の混乱などで上昇した。不動産価格も上向きで、コピティアムの家賃の上げ圧力になっている。
急速な経済再開で人手不足も深刻だ。金融通貨庁は、価格変動の激しい住宅・自動車を除いたコア消費者物価指数の22年の上昇率を前年比3~4%と予想する。「商品価格や国内賃金の上昇圧力次第でさらに上振れするリスクもある」とみている。
コロナ禍の2年間、外食禁止や人数制限などで収入が減り、コピティアムは存続の危機に苦しんだ。「やっと生き残った店に閉店されるよりはマシ」(40代女性)と値上げを支持する声もある。
(シンガポール=谷繭子)
[日経MJ 2022年8月1日付]
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