山梨銘醸の日本酒「七賢」、白州の名水をきわめる

25年ぶりに再訪した。JR中央線の長坂駅から車で約10分。南アルプス甲斐駒ケ岳を源流とする尾白川近くに、日本酒「七賢」の山梨銘醸(山梨県北杜市)がある。
創業は1750年。旧甲州街道沿いに立つ酒蔵は1835年建築の屋敷母屋を店舗にしている。足を踏み入れると、前回にはなかったワクワク感が高まった。
玄関土間の奥に進むと醸造蔵がある。今は感染症対策で見学は休止中。左手は座敷が続き、明治天皇が宿泊した「行在所」を人数限定で見学できる。右手が直売店だ。
店内には七賢シリーズの瓶がずらり。ラベルデザインは以前より洗練されている。カウンターで10〜15銘柄の利き酒ができる。価格は1杯15ミリリットルで50〜300円。多くの銘柄を飲み比べられるのがうれしい。

目を引いたのは七賢スパークリングのシリーズ。25年前にはなかった発泡日本酒だ。シャンパーニュと同じ瓶内二次発酵で製造しているという。口に含むと繊細な泡がやわらかく、爽やかな香りとうまみを感じた。
「5年の歳月をかけて開発した」と13代目の北原対馬社長は話す。2015年にシリーズ第1弾を発売。反応は上々で16年以降も新商品を増やし、いまでは売上高の2割近くをスパークリングが占めるという。
北原社長は05年に青山学院大学を卒業後、米国の酒販会社を経て08年に入社した。日本酒市場はすでに右肩下がりの時代。「手を打たなければ地方の酒蔵が生き残るのは厳しい」。強い危機感があった。
弟の亮庫さん(現在は専務兼醸造責任者)とともに3年かけて経営戦略を策定。14年秋に全商品リニューアルの大改革に着手する。「商品アイテムが多すぎた。絞り込んで品質を高め、全国に通じるブランドにする必要があった」
商品力向上のカギにしたのが仕込み水に使う地元、白州町の名水だ。サントリーの白州蒸溜所や天然水工場が立地するように水の質は折り紙つき。甲斐駒ケ岳の花こう岩に磨かれた水はまろやかで軟らかい。
「白州の水を七賢に体現する」。参考にしたのがワインの世界で使われる「テロワール」、土壌や気候など産地の個性を引き出す思想だ。水の特性を最大限に生かし、地元産の米にこだわった酒造りを志向した。

成果はすぐに出た。全面刷新3カ月で販売は増加。次の攻め手がスパークリングだった。「日本のアルコール飲料市場の75%は炭酸系」と新たな顧客を取りに行った。
「高付加価値化と国際化」を成長戦略の二本柱に掲げる。21年には仏料理の巨匠アラン・デュカス氏と共同開発したスパークリングを発売すると、輸出先が一気に拡大した。いまは欧州やアジアなど25カ国ほどに広がっている。
店を訪れた日にはスペインとアジアからも客が訪れていた。グローカルな老舗酒蔵へと進化した山梨銘醸。伝統と革新の融合が今回の訪問の高ぶりをもたらしていた。
(甲府支局長 松永高幸)

[日本経済新聞電子版 2023年2月2日付]
関連リンク
ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。
関連企業・業界