/

一醸一樽の精神、熟成の途上 長浜蒸留所のウイスキー

NIKKEI STYLE

使われなくなった旧道のトンネルにウイスキー樽(たる)が並んでいた。長浜浪漫ビール(滋賀県長浜市)のウイスキー部門、長浜蒸留所の貯蔵庫だ。長さ300メートルのまっすぐなトンネルに入ると、暗闇の中に1000以上の樽が眠る。トンネル内は年間を通じて温度が一定で熟成がゆっくり進み、さわやかでフルーティーな仕上がりになるという。

ここや廃校で熟成されたウイスキー「AMAHAGAN(アマハガン)」の1品種が2020年のワールド・ウイスキー・アワード(WWA)の1部門で最高賞を獲得した。輸入原酒をベースに長浜で造ったモルト原酒をブレンドしたものだ。

チーフブレンダーの屋久佑輔さんに教わってアマハガン5品種をテイスティングした。グラスに少量入れ、まず色あいを見る。グラスを揺らして香りをかぐ。利き手と同じように左右で利き鼻があると知った。口に含み、かむようにして口全体に広げて味わう。飲み込む前に鼻から息を吐いて余韻の長短を感じる。

5品種は熟成させる樽の材質や過去の使われ方によって仕上がりが異なる。バーボン樽やワイン樽、日本特有のミズナラ材などがある。それぞれに個性を感じるが、言葉で表現するのは難しい。屋久さんは「人によって感じ方や表現が違うのがウイスキーの奥深さ」という。記者はミズナラ樽で熟成した品種に最も鮮烈な印象を受けた。

長浜浪漫ビールは「黒壁のまち」と呼ばれる長浜市中心部の一角で、1996年にクラフトビール製造とレストラン運営を始めた。川沿いに立つ江戸時代の米蔵を改装した建物だ。2016年に開設した蒸留所は約26平方メートル。国内最小という。

ウイスキー生産に携わるのは20~30代の12人だ。糖化から発酵まではビール設備を活用。3基のポルトガル製蒸留器(ポットスチル)を使う。愛嬌(あいきょう)のあるひょうたん型で高さ2メートルある。

1回の仕込みに使う麦芽は400キロ。糖化と発酵、2度の蒸留を経て200リットルのスピリッツを造り、1つの樽に詰める。ごまかしがきかない「一醸一樽(いちじょういちたる)」という長浜蒸留所のポリシーだ。その1樽から生まれたシングルモルト「長浜」の限定品が今年、インターナショナル・ワイン&スピリッツ・コンペティション(IWSC)でアジアウイスキー部門の最高賞を受けた。

屋久さんは「その樽だけたまたま良かったともいえる。1樽、1樽を高い品質で安定させ、ブレンド技術を磨き、将来は誰が飲んでも長浜を感じられるシングルモルトの定番品を造りたい」と目標を語る。ウイスキーファンを増やすため、1泊2日の蒸留体験ツアーも月1回開いている。

日本のウイスキー元年とされる1923年から今年はちょうど100年目。その中で長浜のウイスキーづくりはまだ6年、年産8万リットル(原酒ベース)にすぎない。蒸留所そのものが熟成の途上にある。

(大津支局長 木下修臣)

[日本経済新聞電子版 2022年6月2日付]

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

ワークスタイルや暮らし・家計管理に役立つノウハウなどをまとめています。
※ NIKKEI STYLE は2023年にリニューアルしました。これまでに公開したコンテンツのほとんどは日経電子版などで引き続きご覧いただけます。

関連企業・業界

セレクション

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

新着

注目

ビジネス

ライフスタイル

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン
図表を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した図表はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン

権限不足のため、フォローできません