松江の大根島醸造所、規格外の和菓子でビール

まんじゅうやどら焼き――。和菓子の規格外品を使ったクラフトビールに挑戦しているのが松江市の大根島醸造所だ。思いもよらぬ原材料から生まれた逸品は消費者の心をくすぐり、ヒット商品になっている。
2021年の秋ごろ中浦食品(松江市)の副社長から相談を受けたのが開発のきっかけだった。同社は島根県の人気銘菓「どじょう掬(すく)いまんじゅう」を生産する。規格外品は店頭の試食販売などに利用していたが、新型コロナウイルス禍で開催できずに冷蔵保存していた。
「まんじゅうは皮が小麦粉でできている。それなら活用できるかもしれない」。大根島醸造所の門脇淳平代表社員は、そう考えて開発に着手。同まんじゅうを原料にしたクラフトビール「どじょう掬いまんじゅうエール」が22年3月に誕生した。商品名はコロナ禍で厳しい状況に置かれている企業を応援する「YELL」とエールビールの「ALE」をかけたという。

皮のみならず、あんも砕いて原料にしたクラフトビールは、フルーティーながらスパイシーな飲み口。ほろ酔いのどじょう掬いまんじゅうを描いたラベルもかわいらしく、発売から約10カ月で1万本超を売り上げるヒット商品に。「これほど反響を呼ぶとは思っていなかった」と門脇さんは笑う。
第2弾が22年11月に販売を開始したクラフトビール「山陰どらやきHAZY」だ。鳥取県米子市の和菓子製造会社「丸京製菓」の規格外のどらやきと、松江市の「Lago SENTO宍道湖北」が飼育するヤギの余ったミルクを使用。アサヒグループホールディングス傘下のアサヒユウアス(東京・墨田)と共同開発した。
やはり処分に困った2社からの相談がきっかけだったといい、「どらやきは、まんじゅうの例があるので大丈夫だと思ったが、ヤギミルクは難しかった」と門脇さん。海外での利用例を1つだけインターネットで見つけ、それを参考に工夫したという。「ヤギミルクのほんのりとした甘さが残りつつ、ビールの苦みと香りがしっかり感じられる味に仕上がった」と話す。

ラベルはどらやきの「ど」を大きく打ち出したデザインに。「〝ど〟んな味だろう、と手に取ってもらえれば」との思いも込める。「販売を開始してすぐニュースで知った香港の旅行者が、わざわざ大阪からレンタカーを走らせて松江まで買いに来てくれたのには驚いた」と目を細める。
「どじょう掬いまんじゅうエール」は通年販売だが、「山陰どらやきHAZY」は3月末までの限定販売の予定で用意した5000本がなくなり次第終了という。
同醸造所は以前から安納芋やみかん、いちじくなど地元産の農産物の規格外品を使ったクラフトビールを手掛けていた。これからも食品ロスを減らすため「機会があれば駄菓子やグミなどにも挑戦したい」と門脇さんは意欲を燃やす。
(松江支局長 鉄村和之)
[日本経済新聞電子版 2023年3月2日付]
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