長野・飯綱の林檎学校醸造所 地元産リンゴで発泡酒

長野県北部の飯綱町では、昼夜の寒暖差が大きく冷涼な気候を生かしたリンゴの栽培が盛んだ。廃校となった町立小学校で2019年に開業した「林檎学校醸造所」では、地元産リンゴの魅力を引き出した発泡酒「シードル」を醸している。
旧三水第二小学校の校舎をリノベーションした複合施設「いいづなコネクトEAST」の1階、かつて職員室だった部屋に醸造所はある。施設には他にカフェや売店、ワーキングスペースなどが入居しており、来訪者が廊下の窓ガラス越しに作業の様子を見ることもできる。
運営会社の北信五岳シードルリー(同町)が醸造所の場所を探していたところ、事業説明に訪れた町役場で入居を打診されたという。「シードルの文化を育む場として最適だと思った」と小野司社長は振り返る。
構造は決して醸造所向きではなくレイアウトなどで苦労もあるが、地元のランドマークで場所がわかりやすいなど多くのメリットがあるという。同施設は廃校活用の優良事例としてたびたび紹介され、遠方から訪れる視察者も多い。

11月中旬、シードルの原料となる果汁を搾る工程を取材させてもらった。色とりどりのリンゴをミキサーにかけると、爽やかな香りが醸造所の中に広がる。砕いて粗いペースト状になったものを布で包み、ゆっくり圧力を掛けていくと、黄金色の果汁がじわりとしみ出してくる。
ほとんどの製品は、いったん発酵させた後に瓶詰めして、再度発酵させる「瓶内二次発酵」という製法で造る。手間と時間はかかるが、炭酸ガスを人工的に吹き込むのに比べ、きめ細かな泡と複雑な味わいを楽しむことができる。
「それぞれのリンゴの個性を組み合わせることで、おいしいものができる」と小野社長は力を込める。同町では約50種類のリンゴが栽培されているという。酸味や渋みが強い品種は生食には向かないが、シードルづくりでは味の深みを生むのに欠かせない。見た目が悪く生食用に出荷できないものを活用することもできる。

主力の「学級シードル」では、様々な品種を使い小学校のクラス名のように名称を付けている。21年に醸造した「1組」には、つがるに英国原産のブラムリーや赤い果肉のメイポールを組み合わせ、華やかな香りにまとめた。「5組」では、ふじと酸味が特徴のグラニースミスをブレンドし、甘さを感じるセミスイート仕立てとした。
醸造所に隣接した部屋には直売所もあり、有料での試飲も実施している。試飲スペースの窓は校庭に面しており、周囲の山々の景色を眺めながら味わうシードルは格別だ。
「シードルの世界は自由で発想が勝負。色々な製品を造っていきたい」と小野社長。今後はショウガなどの香辛料を使った、バリエーション豊かな味わいに挑戦する考えだ。山あいの「リンゴの町」から魅力の発信を続けていく。
(長野支局 畠山周平)

[日本経済新聞電子版 2022年12月1日付]
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