愛媛・西条「石鎚酒造」 料理に寄り添い 味引き立てる

西日本最高峰の石鎚山を擁する愛媛県西条市。石鎚山系の伏流水に恵まれ、市内各地にある地下水の自噴井「うちぬき」は環境庁(当時)の「名水百選」にも選ばれた。この「名水の町」の郊外にあるのが1920年(大正9年)創業の石鎚酒造だ。
最も人気を集める銘柄が「石鎚 純米吟醸 緑ラベル」だ。麴米(こうじまい)には兵庫県産の酒造好適米「山田錦」、醪(もろみ)づくりに使う掛米(かけまい)には愛媛県産の食米「松山三井(マツヤマミイ)」を使用。酒造りには蔵にある井戸の超軟水を使い、低温長期発酵で仕上げる。
口に含むと厚みある味わいとともに、華やかすぎず、かといって穏やかすぎない香りが広がる。全体のバランスの良さを感じさせる酒だ。
越智浩社長は「当社が目標に掲げる『食中に活(い)きる酒造り』のまさに代名詞。さまざまな料理に寄り添い、素材の味を引き立てる酒だと思います」と語る。

実はこの緑ラベル、石鎚酒造が1999年に杜氏(とうじ)による酒造りをやめ、家族中心の酒造りに転換して初めて取り組んだ日本酒だ。
きっかけは、それまで酒蔵を担ってきた杜氏の引退。当時社長を務めていた父親が、いずれも東京農業大学で醸造学を学び、それぞれ首都圏の商社と酒造会社で働いていた浩社長と弟を呼び戻した。
周囲には「素人にできるのか」といぶかしむ声もあったが、農大で学んだ基礎知識や現在製造部長を務める弟の現場での経験もあった。幸いにも初年度から全国新酒鑑評会で入賞するなど、高い評価を得ることができた。
手がけるのは主に純米酒や純米吟醸酒。「澄んだ香り、すっきりとした口当たり、柔らかさは仕込み水に由来するものだと思う」と越智社長は語る。
蔵には7本の井戸があり、米洗いから仕込みまで全ての水を賄う。特に仕込み水には、毎年酒造りの前に行う水質調査で、結果が一番よかった水を使っている。水質が最も優れた井戸は深さ15メートルほどの浅井戸。地質学者に詳しく調べてもらったところ、石鎚山の雪解け水が100年余りをかけて湧き出たものであることがわかった。

酒造りはもちろん、後工程の貯蔵管理にも注力する。「日本酒は生鮮食品と同じ」と考えるからだ。
醪を搾る「上槽」から出荷まで全てを冷蔵管理。ほかの多くの蔵元がタンクで長期保存した酒をその都度瓶詰めして出荷しているのに対して、石鎚酒造はできあがった酒をすぐに瓶詰めしている。酸化による品質劣化を少しでも防ぐためだ。
こうした努力と、顧客の声に耳を傾けて改良を続けてきた結果、いまでは国内外の品評会で数々の受賞を誇るまでとなった。「当初は特徴のない酒だったかもしれない」と越智社長は振り返り、「言ってみれば、お客さまに育てていただいたお酒です」と話す。
(松山支局長 平片均也)

[日本経済新聞電子版 2022年9月1日付]
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