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もみじの天ぷら、1年手塩かけ葉先ふっくら

匠と巧 

衣をつけ葉先から油に入れると美しい手のひら状の天ぷらに揚がる=笹津敏暉撮影

晩秋から初冬にかけ、紅葉や滝を楽しむ人でにぎわう大阪・箕面の名物「もみじの天ぷら」。赤く色づくイロハモミジとは違う「一行寺楓(かえで)」という品種の葉を菜種油で揚げたお菓子だ。サクッとした爽快な食感と優しい甘さで古くから親しまれている。由来は諸説あるが、箕面市観光協会によると約1300年前、箕面山で修行していた修験道の祖・役行者(えんのぎょうじゃ)が滝に映えるもみじの美しさをたたえ、天ぷらにして旅人に振る舞ったのが始まりだとされる。

現在、箕面では約20店がもみじの天ぷらを作り続けている。その中の一つ、明治34年創業の「桃太郎」4代目店主・奥野輝夫さん(65)は20代の頃から妻の実家であるこの店を手伝うようになり、会社員を辞めて家業を継いだ。以来、100年超の老舗を営んできた。

もみじの天ぷらが収穫から塩漬け・塩抜きを経ておいしく揚がるまでには1年以上の下準備が必要だ。

山や畑で育てた一行寺楓を秋が深まるころの落葉直前を見計らって黄色くなった葉を収穫して、塩漬けにする。たるの中に葉と塩を交互に積んでいき、水分が蒸発しないようにビニールをかぶせ重しを置く。こうして1年以上塩漬けするとあくが抜け、葉脈が軟らかくなる。ほどよく漬かった葉をたるから出して1枚ずつ洗って柄の部分を根元から、葉先をわずかに切り落とす。こうして処理した葉をまた塩漬け。天ぷらにする1週間ほど前には塩抜きだ。1日に2~3回水を入れ替えて3日間、丁寧に処理をする。塩抜きが不十分だと膨らまないという。

こうして手塩にかけた天ぷらの「タネ」を無駄なく形が崩れないように揚げていくのが肝心だ。葉先がきれいに分かれ、ふっくらと仕上げなければならない。

奥野さんは「店の手伝いに入ったころに先代の奥さんや妻から作り方を教えてもらった。葉が丸まったり、折れたりせずにきれいに揚げるのに10年はかかった」と話す。

衣の材料は小麦粉と水、砂糖、ゴマの4つでシンプルだが、それぞれの店で代々引き継がれた秘伝のレシピがある。桃太郎では上白糖を使うが先代に比べて甘さは控えめ。冬には甘く、夏には控えめと季節によっても味を変えている。塩抜きした葉を衣にくぐらせ、油の温度をみながら手際よく葉先から油の中へ。鍋の中で箸を離すと葉がフワッと浮かんで白い湯気が上がる。油に浮かんだ50枚ほどの葉を衣の色や膨らみを見極めながらひっくり返す。油に入れてから約20分、焦げ茶色になった葉を先端を下にして油から持ち上げ、鍋の上の網に葉を立てて並べていく。冷めた後もさらに3~4日、油を切る。「しっかり油が落ちるとべたつきがなくなり、香ばしくおいしく食べられます」

今年収穫した葉が店頭に並ぶのは来年の紅葉の時期を過ぎてから。新型コロナウイルスの流行で寂しげな大阪の名所・箕面だが「そのころまでにはまた多くの人が訪れる滝道になってほしいと切に願う」と奥野さん。

(笹津敏暉)

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