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沖縄県、離島避難で初の図上訓練 台湾有事念頭に

沖縄県は17日、先島諸島の住民を島外へ避難させる想定で初めて図上訓練した。台湾有事など不測の事態に巻き込まれるリスクを念頭に、政府や民間交通機関などとの連絡体制を確かめた。輸送力の強化や避難先の住居確保など検討課題は多い。

訓練は国民保護法に基づく。台湾と沖縄本島の間にある先島諸島の5市町村や内閣官房、自衛隊など20機関ほどが参加した。日本がA国から攻撃を受ける可能性が高まり、政府が近く武力攻撃予測事態を認定するとの想定で行われた。

訓練では県全域を要避難地域とみなし、避難準備に着手した。各市町村や政府の担当者が集まり、各島内の状況や避難の手順を確認した。与那国町の担当者は「輸送手段の確保は国や県にお願いするしかない。平時から備えておく必要がある」と語った。

避難対象は先島諸島の住民11万人と観光客1万人だ。まず小規模な島から大型の空港や港のある石垣島と宮古島へ移動し、両島から九州へ避難する流れとした。沖縄本島や周辺離島の140万人近い県民らは屋内退避との設定にした。

輸送には原則として、民間の航空機や船舶を使う。県が国民保護法に基づき協力を依頼している航空会社やフェリー会社など「指定地方公共機関」が中心となって担う。有事になれば自衛隊は「侵略の排除」が最優先となるためだ。

県は訓練で、有事には先島諸島から1日2万人強ずつ輸送し、6日間で全員の避難が完了するとの試算を示した。石垣市と宮古島市から航空機で1日1万8000人、船舶で同3千人。平時の輸送力では10日以上かかるが、船舶・航空機の増便などで短縮する。

備えは十分とはいえない。試算は夜間や悪天候時の運用のほか、自衛隊が民間空港・港湾を使う場合の対応などを想定していない。要介護者の避難をどのように手助けするかや、避難先での住居の確保といったシミュレーションも不十分だ。

訓練に同席した国士舘大の中林啓修准教授は「限られた輸送力を行政で綿密に調整しないと避難できないのが特に沖縄における課題だ」と指摘した。要介護者の避難を例に挙げて「時間と手間をかける部分と、優先すべき部分を詰める必要がある」と説いた。

沖縄県が有事を想定した住民避難の訓練に乗り出した背景には安全保障環境の変化がある。

2022年にはロシアがウクライナに侵攻し、中国が台湾周辺での大規模な軍事演習を展開した。民間人が攻撃に巻き込まれる事態を目の当たりし、23年に入ってからは鹿児島県のほか、大阪府・京都府・兵庫県などが政府と共催で図上訓練を実施した。関西では一部、実動訓練もした。

沖縄県は米軍や自衛隊による訓練目的での民間の空港や港湾の使用には反対する姿勢を示している。

玉城デニー知事は17日の記者会見で、図上訓練について「特定の有事や差し迫った事柄を想定していない」と述べた。「どのような連携で住民の安全を確保できるかという責任(がある)という考え方で行われた」とも主張した。

(児玉章吾)

国民保護法


武力攻撃や大規模テロが起きた場合の国民の安全確保のため、国や地方自治体、民間輸送機関の役割を定めた法律。有事法制のひとつとして2004年に施行した。都道府県や市町村に避難や救援の方針を明記した「国民保護計画」の策定を義務づけている。

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