十八親和1強の牙城崩せるか、長崎銀 紹介通じ顧客開拓
地域金融のいま㊥十八親和銀 発足1年

十八親和銀行は長崎県内企業の84.9%(2月時点、帝国データバンク調べ)でメインバンクとなっている。強すぎる1強のシェアを、2番手以降の地銀・信金が切り崩すのは容易ではない。金融庁の指導もあり、1強の弊害は表だっては見えてこないが、新型コロナウイルス禍の長期化で長崎経済は疲弊している。健全な競争環境を維持するには、2番手以降の台頭がカギを握る。
西日本フィナンシャルホールディングス(FH)のシェアは傘下の長崎銀行と西日本シティ銀行を合わせて4.3%、たちばな信用金庫が3.2%にとどまる。長崎銀行はもともと個人向け融資を主体とし、企業向け融資を本格的に始めたのは旧十八銀行がふくおかフィナンシャルグループ傘下に入った2019年以降だ。

「地銀の合併では必ず『敵失』が生まれる」。長崎銀行の今村清隆常務はこう語る。今村氏は3月まで西日本シティ銀行で営業推進部を率い、04年の旧西日本銀行と旧福岡シティ銀行合併にも立ち会った。過去の経験から、十八親和も合併後当面の間は業務負荷が高まり、取引先への営業にほころびが出るとみる。
長崎銀行は地元企業を訪問営業し、攻勢を掛ける。19年に法人営業室を設け、9月末までに約740社に計200億円の融資を実施。約2割でメインバンクの座を勝ち取った。今村常務は「顧客からの紹介がカギを握る」と話す。開拓した顧客を通じて取引先を広げる戦略だ。シェアの差が大きいため「最初は2番手で構わない」とし、商機をうかがう。
ニッチ市場に「生存圏を築く」ことも戦略だ。6月に個人事業者向けローン商品の窓口販売を始めた。通常はネットで展開する商品だが、面談できる窓口で受け付け、これまで関係が薄かった顧客を開拓する狙いだ。
4月には西日本FHを引受先とする30億円の増資を実施。諫早市と島原市で法人営業担当者を新たに常駐させた。同月、長崎銀行出身者を初めて法人営業室長に据え、今村常務は「高度サービスを除き、最終的に長崎銀行が自力で展開できるようにする」と話す。

「十八親和の統合が発表された時、新規開拓のチャンスと考えた。企業はサブの取引金融機関を探すはずだからだ」。たちばな信用金庫の塚元哲也理事長はこう話す。営業担当1人につき50社の新規開拓先をリストアップさせ、営業を強化。その結果、1年で取引先を2180社と1割近く増やした。
コロナ下での融資もシェア拡大につながった。諫早市内でたちばな信金の貸出額シェアは7月末で16.4%と、前年同月比1ポイント増やした。「飲食店や医療機関の資金需要がかなり出ている。新規開拓した180社のうち、約半分は今まで金融機関から借り入れがなかった事業者だ」(塚元理事長)。コロナ下でも食事主体で業績が伸び、新店舗を計画する飲食店があるなど、前向きな資金需要もある。
もっとも地元経済界での十八親和銀行の存在感は圧倒的だ。競合する地銀の担当者は「県の主要企業には旧十八か旧親和出身の社員がほぼ必ずいる」と嘆く。十八親和銀行出身者数人が勤務する中堅企業を営業した際は「訪問は歓迎する。ただし取引は絶対無理だ」と断言された。
地域寡占が金利上昇などの悪影響を引き起こさないか、外部有識者がモニタリング調査したところ、不自然な金利上昇は今のところ起きていなかった。
地元企業も金利が高くならないように知恵を絞る。「信金と相見積もりを取ることが増えた」。旧十八銀行をメインバンクとしてきた県北部の金属加工会社幹部は、十八親和銀行と信金に融資条件を競わせている。同社では最終的に十八親和が優位な条件を示し、信金との取引には至っていないという。
ただコロナ関連融資に限ると、2番手以降の攻勢が目立つ。コロナ関連が約8割を占めた長崎県信用保証協会の保証承諾額シェア(3月末時点)は十八親和銀行の65%に対し、長崎銀行が12.3%、たちばな信金が6.4%、西日本シティ銀行が3.8%と、通常のシェアより大きかった。リスクもあるが、コロナ後に取引先が業績を回復できれば、2番手以降のシェア拡大につながる可能性がある。
22年秋には西九州新幹線が一部開業する。佐世保市へのIR(統合型リゾート施設)誘致活動も本格化してきた。これらを長崎経済再興のきっかけとし、限られたパイを奪い合う競争から、地域の成長につながる競争に発展させる必要がある。(若杉敏也、山本夏樹)
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