/

「天空の城」に学べ 山城で歴史ツーリズム 中井均さん

関西のミカタ 滋賀県立大学教授

なかい・ひとし 1955年大阪府生まれ。79年龍谷大文卒。米原市教育委員会、長浜城歴史博物館館長などを経て2011年滋賀県立大准教授、13年より現職。著書に「中世城館の実像」(高志書院)、「信長と家臣団の城」(角川選書)など。

■滋賀県立大学の中井均教授(65)は全国で約30の城郭調査の委員を務めている。本物を大事にする考えから、安易な復元に警鐘を鳴らす。

「天空の城」として有名になった但馬竹田城(兵庫県朝来市)も、30年前は土日に誰も来ない寂しい山城だった。天守や櫓(やぐら)などの建築物がないからだ。ところが山上の木々を取り払うと、16世紀の終わりに積まれた本物の石垣が圧倒的なスケールで麓から見えた。雲海という自然現象もあって、年に数十万人が訪れる観光地になった。

城郭に革命的な変化をもたらした安土城(滋賀県近江八幡市・東近江市)にも天守(主)は残ってない。滋賀県が復元プロジェクトを進めているが、織田信長が積ませた本物の石垣を生かすべきだ。木を切れば壮大さが分かる。

昨年、安土城の範囲がどこまであるかを確定するために、本丸の北側を調査した。八角平と呼ばれる場所には立派な石垣が残っていた。本丸石垣に次ぐ高さだ。安土山全体が城域との見方もあるが、私はこの八角平までが安土城だったと狭い範囲で考えている。北側は立ち入り禁止になっているが、入れるように整備すれば本物の魅力が加わる。

歴史や自然はお金で買えない地域の誇りだ。住んでいる人の自慢になり、郷土愛の醸成につながる。新型コロナウイルスの感染拡大を機に、身近な地域を見つめ直す新たな観光のあり方が模索されている。関西には6千以上の城館跡があるので、山城を生かした歴史ツーリズムは地域の活性化につながる。ボランティアガイドの養成講座などで住民と行政、研究者が協力関係をつくることが大切だ。

各地で城郭の発掘調査を続けている(左手前が中井教授、岐阜県飛騨市、2019年11月)

■安土城以前の戦国時代の山城遺構の現状を危惧する。

戦国時代の7つの山城で、国の史跡にするための調査に関わっている。関西では飯盛城(大阪府大東市・四條畷市)と芥川城(同府高槻市)がある。ともに三好長慶が改修した。多くの石垣が見つかっているが、長年放置され、崩れているところもある。

関西は16世紀初めから半ばまでに積まれた戦国期の貴重な石垣が多い。技術が確立した近世の石垣に比べ、戦国期のものは極めて雑につくられているため、積み直しは難しい。大阪の2つの山城は戦国期の遺構を国の史跡にして保存するモデルにすべきだ。

厳密に言えば当時の方法で積み直したとしても、石垣は解体した段階でオリジナルではなくなる。崩れるのを防ぐために、目立たないネットで覆うような技術を開発したい。土木と考古学の研究者が協力できないかと思う。

■3月末に退官する。大学の研究室にあった膨大な城郭の史料は滋賀県長浜市に寄付した。「中井文庫(仮称)」として活用される予定だ。

城郭に関する蔵書2万点のうち、全国の自治体が実施する発掘調査の報告書が5千点ある。報告書は原則300部しか刊行しないが、せっせとはがきを送って集めた。私が大学に入った1970年代は列島改造ブームで地方の開発が相次ぎ、それにつれて城郭の発掘調査が増えた。当時から集めているので、ほぼすべての調査を網羅できている。

寄付するのは将来にわたって史料を散逸させないためだ。まずは小谷城(長浜市)に近い市立浅井図書館に収蔵される。関西の若い研究者が遠くまで行かなくても、一カ所で調べられるようにと考えた。誰でも手に取って見られるように開架にしてもらう。

4月から1カ月余りは講演などの依頼をすべてお断りした。彦根城(滋賀県彦根市)から松前城(北海道松前町)まで車で1日1城を巡る旅に出る。妻とともに桜前線を追い城と桜を写真に撮るつもりだ。各地の調査委員会はもちろん、城との関わりは続く。(聞き手は木下修臣)

すべての記事が読み放題
有料会員が初回1カ月無料

関連トピック

トピックをフォローすると、新着情報のチェックやまとめ読みがしやすくなります。

セレクション

トレンドウオッチ

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

新着

注目

ビジネス

暮らし

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
新規会員登録ログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
新規会員登録ログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
新規会員登録 (無料)ログイン