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茅葺き屋根 機能と色気ふき込む 神戸市北区の職人

匠と巧

茅葺き屋根のふき替え作業。屋根が向く方角や建物の立地などの自然条件によって最適な固さに仕上げる=松浦弘昌撮影

ススキやヨシなどを材料とする茅葺(かやぶ)き屋根。神戸市北区には六甲山北側に農村風景が残り、今も約700棟の茅葺き民家がある。全国有数の多さだ。素材が全て土に返り、環境負荷が少ないと注目されている。用途開発や修繕を担うくさかんむり(同市北区)は、伝統技術を守りつつ屋根の機能性と色っぽさを追求している。

トントン、トントン――。1月下旬、神戸市内で茅葺き屋根のふき替え現場から音が響く。くさかんむり代表の相良育弥(41)さんが、イメージ通りのふき具合か確認するため、木製のたたき板で屋根材を打っていた。適切な厚みと勾配。基本でありながら最も難しい作業だ。

屋根の角部分は最も雨風の影響を受けるので、細心の注意が必要になる。茅葺きを固くしすぎると、適度に排水する「雨じまい」が悪くなり、屋根の寿命が縮んでしまう。茅を緩めに調整し、隙間を空けた方が、雨水が下へと流れやすい。

だが気を使うのは雨だけではない。風が強い地域では固めにふき、飛ばないよう工夫する。約2㍍の長い茅を使うほか、周囲に防風林を設けることもある。さらに地域の日照時間なども考慮して、絶妙なさじ加減で屋根の全体を形作る。腕の見せ所だ。

屋根の角度は神戸市では40~45度が一般的だが、白川郷(岐阜県白川村)のような豪雪地帯では雪が滑らず重みでつぶれてしまう。現場を仕切る職人は気候を熟知し、他の職人を適切に差配しなければならない。

屋根材は国内産にこだわる。原料のススキやヨシは、伝統的には近隣地域で刈り取っていた。だが現在は中国からの輸入が増えている。「検疫ではきつめの消毒がされる。これでSDGs(持続可能な開発目標)と言うのはおかしい」(相良さん)。循環型社会への信念は譲らない。

茅葺き技術は10年もあれば基礎は身に付くという。ただ周囲の環境との一体性、角のラインの「色気」は職人によって千差万別。相良さんは「人生経験が多いほど、その場になじむ屋根ができる。彫刻作品に近い」。4つある屋根の角は違う職人が担当することが多い。特徴の違いを鑑賞するのが通な楽しみ方だ。

アイデアの引き出しが多いのも強みだ。欧州にも住居に茅を使うなど茅葺きの伝統が残る。2014年に独アーヘン工科大学へ渡ったほか、オランダやイギリスの職人からも最新の茅葺きプロジェクトを学んだ。

日本でも京都府や宮城県の職人に学び、新たな道具を生み出した。大工や左官とも交流し、現代に合った発想力を鍛えてきた。1月には東京・表参道のアウトドア店で茅葺きで作った展示テーブルを納入した。

20年には国連教育科学文化機関(ユネスコ)による無形文化遺産登録が決まった茅葺き技術。年30回ほど開いてきた講習なども若い世代への伝承のため継続する。視野を海外まで広げて伝統を深掘りし、茅葺き文化もふき替え続ける。

(沖永翔也)

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