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多極的な関西 数値化できないもの大切に 青木真兵さん

関西のミカタ

あおき・しんぺい 1983年埼玉県生まれ。関西大学大学院博士課程修了。「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」運営。古代地中海史研究者。障害者の就労支援を行いつつ、大学などで講師を務めている。

■古代地中海史の研究者で、大学の非常勤講師などを務めていた青木真兵さん(37)は2016年春、妻で図書館司書だった海青子(みあこ)さん(35)と奈良県東吉野村に移り住んだ。人口1700人の過疎の村で古い民家を借り受けて始めたのは、自宅の一部を「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」として開くことだった。

歴史や文学、哲学、漫画など自分たちの蔵書を中心に約3000冊を貸し出している。会員証を作るのに500円を頂くが、貸し出しは無料。ゲストを招いて講演会を開いたり、韓国民謡のライブなども開催したりしてきた。

「何かをする」ために自宅を開いたのではなく、「地に足をつけるために自宅を開いたら図書館になった」というのが正しいのかもしれない。月10日程度の開館で冬季休暇が3カ月間。19年は年間約400人、昨年は新型コロナウイルス禍で46日間しか開けなかったが251人が来てくれた。コロナ禍の近況や思いを手紙で送ってもらい、その内容をもとにお薦めの本3冊を選んで返送する「往復書簡」の取り組みも始めた。

■19年10月に初めての著書「彼岸の図書館――ぼくたちの『移住』のかたち」を出版した。自分の体と感情に正直な暮らしをしたいと考えた青木夫妻が、思想家の内田樹さんらとの対話を通して生き方を見つめ直した3年間の記録だ。書名に掲げる「彼岸」には、人生の意義がお金と消費だけで語られがちな都市生活の論理から外れたところにある、という意味を込めた。

生活の中で感じた違和感を吐露できるインターネットラジオ「オムライスラヂオ」を14年から始め、そこでの対話を本にした。移住前、ぼくたちは、それぞれ研究職と図書館司書としてキャリアアップを目指したが、思うような働き方ができず、体調を崩してしまった。命からがらたどり着いたのが東吉野村だった。

数値化され、序列化されてしまうのが今の社会だ。だから、そうではない、もう一つの原理が働く場所をつくりたいと考えた。白黒つける。0か1か。そうしたデジタルな思考でなく、数値化できないものの存在を認める。「なんとなく」の力を軽視しているから、実は誰もが感じている「もやっ」を切り捨てて、「きちっ」としたものしか信じなくなる。「もやっ」としたものを切り捨てずに、全体をつかむ。それには「微調整」の感覚が必要だ。

妻の海青子さんと移住し「人文系私設図書館ルチャ・リブロ」を開館した(奈良県東吉野村)

■社会福祉法人で障害者の就労支援をしながら、大学やカルチャーセンターで月に数回、専門の古代地中海史などの講義を行っている。最近は就活生向けに、地方での働き方について話をしてほしいという依頼が増えた。

これまでなら地方移住には自給自足できる力とか、人にかわいがられるようなキャラであるとかの能力が必要だった。でも、テレワークが普及したことで、そうした特殊能力がなくても地方移住して自分なりの生活を組み立てることがしやすくなったと思う。関西は多極的で東京のように一極集中ではない。いろんな可能性を残しつつ生きるうえでは居心地がいい。東吉野村のある紀伊半島には、自然だけではなく、歴史や文化がしっかり根付いている。

大学などで講義すると講座単位でお金はもらえるが、自分の労働力を商品に変えて対価をもらっているのはほぼ就労支援だけ。それなら図書館活動は自分の趣味かといえば、そうではない。社会にかかわる仕事だと考えている。大切なのは自分の価値を「お金を稼ぐための労働」だけに絞らないことだ。「すべてをお金で解決する原理」とは違う、もう一つの原理を持ち、2つの原理にまたがって生きることが大切だ。(聞き手は岡本憲明)

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