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とみや織物の西陣美術織、厳かな仏像を精緻に表現

匠と巧

左の帯より多い約2万4400本のよこ糸を使い、聖林寺の十一面観音立像を織る=玉井良幸撮影

華麗から荘厳へ――。明治初期創業のとみや織物(京都市)は、西陣織の技術を応用して仏教美術の分野に挑み、「西陣美術織」を生み出した。少し離れて見ると写真と見間違える精緻さで、立体感もある仏像の掛け軸。西陣織といえば和服のあでやかな帯が有名だが、それとは対照的な厳かさが立ち上ってくる。

奈良県桜井市にある聖林寺の国宝、十一面観音立像を題材にした作品の場合、たて糸は約2700本、よこ糸は約2万4400本。よこ糸の数は和服の帯の倍以上という。仏像の微妙な陰影を表現するため多数の絹糸を使うが、織り方はより難しくなる。

よこ糸の数が増えると、たて糸と交わる箇所が増え、摩擦などでたて糸にストレスがかかる。よこ糸の長さに余裕をもたせるなど、力織機を扱う職人が気を配らないと、たて糸が切れてしまう。戸田智久工房長(43)は「温度などでも変わる糸の状態に対応するには経験が重要。ロボットでは今は無理」と話す。

仏像の場合、撮影した画像データをコンピューターグラフィックス(CG)で調整。たて糸を引き上げてよこ糸を通すといった織機制御の情報はコンピューター処理だが、全自動で織れるわけではない。絹糸は蚕の繭からとるため品質にバラツキがある。糸の表面にたんぱく質のダマができたり、染料で糸が弱っていたりすることもある。完璧を目指すため、織り具合が少しでも悪ければ機械を止めてやり直す。

よこ糸の補充も職人の仕事。空気が乾燥していると静電気で糸が絡みやすいのでストーブにヤカンをのせるといった配慮も必要。冨家靖久社長(54)は「音を聞いて機械の調子を判断することも大切。職人にとって織りは機械を使った手仕事のようなもの」と話す。

西陣は生地の表を下に向けて織るため、職人は下に置いた鏡をのぞいて織り具合を確かめる。伝統工芸士の資格をもつ職人の森あいさん(42)は「より近くで見たいときは手鏡を使う」と教えてくれた。

聖林寺の観音像には金、銀を含めて12色の糸を使った。背景には太い黒糸、観音には細い黒糸を使って本尊が浮かび上がるように表現している。黒が基調の仏像は、ちょっとした糸の引っ張り具合で光の見え方が変わりやすく、気を使うという。森さんは「機械といっても無機質ではなく、心をもった仕事のパートナーと感じる」と言う。

西陣織の名は応仁・文明の乱の西軍の陣地に由来する。伝統産業だが、冨家社長は「常に新しいものに挑戦したい」と語る。

織元のとみや織物に仏教美術を提案したのは、西陣織の企画・販売を手掛ける京都企画会議(京都市)の蔦田文男会長(74)。2005年に知人の紹介で聖林寺を訪ねたのを皮切りに、これまで約50体の仏像をとみや織物に製造委託してきた。最初の作品は原則として寺に奉納する。蔦田会長は「美術の愛好家や仏教の信者の購入希望が多い」と話す。  

(塩田宏之)

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