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角居調教師、異例の早期引退 引退馬支援の活動は継続

一線で活躍し続けた角居調教師は家業を継ぐために勇退。注力してきた引退競走馬支援の活動は続けていく

中央競馬では、2月末に美浦・栗東合わせて8人の調教師が引退する。8人中7人は70歳の定年だが、角居勝彦調教師(56)は定年まで10年以上を残しての勇退。開業4年目に初めてのGⅠ勝ちを収め、2019年にも皐月賞と日本ダービー(ともにGⅠ)を勝つなど、常に一線を走り続けながらも、家業を継ぐために調教師生活に終止符を打つという異例の決断を下した。同調教師に競馬界への思いや、取り組んできた引退競走馬支援の今後についてを聞いた。

組織力上げて好成績、人材も育つ

角居調教師は04年にデルタブルースで菊花賞を制して以降、ここまで中央のGⅠを26勝。07年にはウオッカで日本ダービーを勝ち、64年ぶりに牝馬によるダービー制覇という偉業を成し遂げた。11、13年には中央の最多勝も記録した。

これだけの実績を残した原動力は「チームワークが大前提」という厩舎づくりだった。かつての競馬界では腕の優れた厩務員が個人技で強い馬を育て、厩舎を引っ張っていくケースが多かった。だが、その人がいなくなると厩舎の成績が下がる。有力馬を囲い込みたい腕利きが若手にノウハウを伝えないこともあった。

角居調教師は「お互いが助け合わなければ、いいチームはできない」という考えのもと、組織力を高めた。一応の担当馬は決めるが、それとは別に、飼い葉を調整して馬に与える班、調教プランを考える班など、作業ごとにチームを編成。従業員一人ひとりが厩舎の全ての馬に関わる仕組みとした。腕利き1人に頼るよりも「チームをつくった方が効率がいいし、成績も上がる」という。

この組織づくりは人を育てることにもつながった。近年も厩舎から吉岡辰弥、辻野泰之両調教師などを送り出した。「人を育てることが馬を育てることにつながる。人がきちんとできあがらないと、いい厩舎はできない」と角居調教師。「角居厩舎の中でチームワークを意識したり、人に教える立場に立ってみたりと、自分なりに良い悪いを判断して学んでくれたのだろう」と優秀な人材を育成できた背景を説明する。

凱旋門賞制覇へ「毎年、挑戦」が重要

所属馬は海外でも活躍した。目指すきっかけは意外な理由だった。開業当時、36歳と若く「厩舎の従業員と比べても一番年下だった。チームで仕事をしたことがない従業員ばかりだったし、『良い馬を渡してもらえれば、つくってやるよ』という人が多く、話を聞いてもらえなかった。耳を傾けてもらうには、世界を目指すと言わなければならなかった」と明かす。

築き上げた組織力もあり、海の向こうでも実績を残した。06年にはデルタブルースでオーストラリア最大のレース、メルボルンカップ(GⅠ)に優勝。11年には世界最高峰のレースのひとつ、ドバイ・ワールドカップ(アラブ首長国連邦=UAE、GⅠ)をヴィクトワールピサで制した。

日本の競馬関係者の悲願とされる仏・凱旋門賞(GⅠ)にも、勝てなかったとはいえ、10、19年と2回チャレンジした。大きな夢は他のホースマンに引き継がれるが、日本調教馬が凱旋門賞を勝つのに必要なことは何か。角居調教師の答えは「毎年、挑戦すること」。ドバイや香港など、日本の競馬場と同じようなトラックで調教ができる国と違い、欧州は広大な調教場も多く、「使いこなし方がわからない」など調整にも苦労したという。だからこそ経験を積み重ねることが大事だと説く。

角居調教師の現役の期間は、日本の競馬界が大きな変革を迎えた時期でもあった。特に大きく変わったのは、調教師と大手牧場の力関係だろう。大手牧場がトレセン外の施設を整え、調整やレース選択などで主導権を握るようになった。一部では、調教師の仕事がやりづらくなったとの声も上がる。

だが、こうした変化については「本来、モノをつくっている人が一番強い。競馬の場合、配合を考え、競走馬へと育成をする牧場が一番、思いも強い。大事なプロセスを握っている人の意見が強いのは自然なこと」と話す。「どちらが強い、弱いというのではなく、ひとつのチームとして一緒の夢を共有し、うまく連携が取れていないと結果は出ない」という。

引退後も「馬を救う」取り組み

引退後は石川県輪島市で家業である天理教の教会を継ぐ。競馬界からは去るが、馬に関わる取り組みは続ける。これまでも注力してきた引退競走馬のセカンドキャリア支援である。

現役引退後に種牡馬などの繁殖馬になれるケースは少なく、殺処分されたり、行方がわからなくなったりする競走馬も多い。角居調教師は引退競走馬を再調教し、乗用馬のほか、障害者や高齢者の心身の機能向上を目指す「ホースセラピー」向けの馬として活用するプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトの一環として、引退馬のファンクラブも設立。賛同する競馬ファンに月会費を払ってもらい、引退馬が乗用馬となるのに必要な費用を手当てする仕組みをつくった。

引退後もこの活動に携わる。しかも一歩進めた形で継続する。

プロジェクトは徐々に軌道に乗り、引退競走馬が乗馬の世界に新たに供給されるようになった。だが、今度は高齢などで人を乗せられなくなった馬が、乗馬クラブから押し出され、行き場がなくなるケースが出てきた。

クラウドファンディングで資金を集め、石川県珠洲市に牧場を設立。乗馬クラブに居場所がなくなった馬たちの受け皿にする取り組みを進める。こうした馬も「雑草処理や馬ふんを使った堆肥づくり、人と触れ合うことによる福祉活動などの仕事ができる。馬がいることでイノシシが山から下りてくるのを防ぐ効果もある」という。「自分の目の届くところでやりたい」と、輪島市に隣接する珠洲市を牧場の場所として選んだ。自身の取り組みが馬を介した地域の活性化にもつながるのではと期待を寄せている。

(関根慶太郎)

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