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38歳内川と43歳福留、闘志秘め背水のシーズンへ

チームの中心選手に球団が複数年契約を持ちかけるケースが多い。フリーエージェント(FA)権の行使で去られるのは編成上、大きなマイナス。チーム力を維持したい必死の思いが、好条件を提示してのつなぎ留めに表れる。対照的なのが、チームの中心から外れつつあるベテラン。主力時代では考えられない「冷遇」ぶりに戸惑う選手は少なくない。

ヤクルトへの入団記者会見で笑顔でポーズをとる内川(2020年12月)=共同

2020年にその悲哀を特に味わったのが、長年、ソフトバンクの中心打者として活躍してきた内川聖一だ。この年の公式戦出場はゼロ。大きなけががなく、ファームの試合で結果を残しながら、ついに1軍に呼ばれることはなかった。

まさかの1軍出場ゼロで退団決意

外国人選手らとのポジションの兼ね合いなど、その時々のチーム事情から昇格のタイミングがなかったということなのだろう。あれだけの打者が1試合も出ることなく、チームがレギュラーシーズンと日本シリーズを制した事実は、改めてソフトバンクの選手層の厚さを感じさせた。

最終的にファームで3割2分7厘の打率を残しながら1軍でプレーできなかった無念は大きかっただろう。20年のウエスタンリーグ最終戦でのあいさつで、内川はこう言ってチームを去る決意を表したという。「今年、1打席も1軍でチャンスをもらえなかったということで、自分の中で野球をやめる決心がつかなかった」

新天地はヤクルトに決まった。ベテランはたとえ出場機会が減っても、チームが優勝争いをしていれば自分の数少ない打席に価値を感じることができる。難しいのは優勝戦線から脱落したとき。優勝につながらないとなれば、ふと「この打席にどんな意味があるのか」と考えてしまうものだ。

今や球界の頂点に立つソフトバンクから昨季セ・リーグ最下位のヤクルトに移ることで、本来ならモチベーションの低下が懸念されるところだが、今の内川にその心配は無用だろう。2年連続最下位のヤクルトにとって、優勝経験豊富な希代のバットマンは、チームの浮上に必要な選手。たとえ最下位だろうが、「君が要るんだ」と求められていくことに幸せを感じているのではないか。

1988年、阪神でプレーしていた私は、オープン戦で実力の乏しい若手を重用するあまりなかなか勝てずにいた村山実監督に意見を求められ、「勝つための野球をしてほしいです」と述べた。この発言がかんに障ったのか、ほどなくして2軍に降格。そこから「村山さんが監督の間は絶対にやめない」と奮起し、1軍復帰後、この年だけで3本のサヨナラ本塁打を放った。このときと同じような思いを今、内川は抱いているのではないだろうか。まだまださびついていない打撃技術で活躍し、ソフトバンクを見返してやる、と。

若い選手は欲の塊で、やりたいことが山ほどある。「あいつを蹴落としてやろう」と血の気も盛んだ。対してベテランになるといろいろなものが見えるようになり、一心不乱に突き進むということが少なくなる。そこで大事になるのが、自身を奮い立たせるための燃料。若手に負けないほどの情熱を燃やすためにくべる薪(まき)を得られるかどうかが、その後の選手寿命に関わってくる。38歳の内川にとっての燃料は、ソフトバンクでの長年の貢献の後に待っていた冷遇ぶり。1試合も1軍でプレーできなかった事実は、むしろ今年の爆発への導火線になり得るかもしれない。

戦力外通告受け古巣へ

阪神から古巣の中日に移籍した福留孝介も同じような境遇だろう。16年に39歳で打率3割をマークするなど攻守にわたって活躍してきたこのベテランは、昨年、阪神から戦力外通告を受けた。近本光司ら若手にアドバイスして打撃不振からの脱出につなげるなど、プレー以外での貢献度も高かった中、期せずしてチームを去ることになった。

中日との正式契約後の記者会見で、1998年の中日入団発表時に撮影された星野仙一監督(当時)の前でバットを振る写真とポーズをとる福留(2020年12月)=共同

昨年の福留を見ていて気になったのが、直球に泳がされていたこと。泳がされる、つまり上体が崩される現象は通常、直球を待っているところに変化球が来たときに起きる。そこで直球に対して上体が崩れるのは、球速についていけていないことを意味する。あれだけの打者がそういう崩れ方をしたのは、目に異常があったからか、それとも新型コロナウイルス禍で開幕時期が大幅にずれ、調整がうまくいかなかったからか。いずれにしても、このままでは終われないという思いが、43歳にして現役続行を決意した根底にあるだろう。

20年は代打が多く、打席数は92、打率は1割5分4厘に終わった。ただ、12安打で12打点を挙げた事実は今もチャンスに強いことを証明した。中日が「ここ一番での1本を」と、代打の切り札の役割を期待するのもうなずける。ただ、並の若手がかなわない守備力を持つ福留にとっての燃料は「もう一度レギュラーに」という思いではないか。

西武の栗山巧はこのオフ、37歳ながら球団と3年契約を結んだ。昨年、中村剛也や山川穂高らレギュラー陣の多くが長い不振を経験した中、勝負強い打撃で4番を務めるなどしてチームを支えた功績が認められた形だが、ベテランで複数年契約を結ぶケースはまれ。単年契約で勝負をかける内川と福留が背水のシーズンにどう臨むのか。ベテランの生きざまに注目したい。

(野球評論家)

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