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「人気のセ」があだ? 埋めがたい「実力のパ」との差 

日本シリーズ4連覇を達成したソフトバンクに拍手を送る巨人の(左から)坂本、原監督、岡本ら(11月25日)=共同

「人気のセ、実力のパ」と言われるようになって久しい。当初は、連日の巨人戦のテレビ中継であまねく知名度が上がったセ・リーグ球団とは対照的に、放送が少なく日の当たらないパ・リーグ球団への哀れみからつけられたキャッチフレーズだったように思う。それが、2020年の日本シリーズでソフトバンクが2年連続で無傷の4連勝を果たし、パ・リーグ勢が8年連続でシリーズの覇者に。今や、哀れみの視線を送られるのはセ・リーグ勢の方になった感がある。

またしても巨人が圧倒されたのを見て思ったのが、なまじ人気があったことがセ・リーグ勢の凋落(ちょうらく)を招いたのではないかということだった。球場に詰めかけた大観衆に加えて、その何十倍もの人がテレビで自分たちのプレーを見ていると思うと励みになる。一方で、多くの人に見られることで「下手なプレーをしたら恥ずかしい」という心理が働くようにもなる。「ぶざまな空振りはできない」とミートに徹するあまり打撃が小さくなり、スイングに迫力を欠くようになったと感じる。

こぢんまりした打撃の背景には相手バッテリーの攻め方もあっただろう。パ・リーグの投手に果敢な内角攻めを身上とする人が多いのに対し、セ・リーグではそこまで執拗な内角攻めはあまり見られない。指名打者(DH)制がないセの投手は打席にも立つ。死球を与えれば、自分が打席に立ったときに報復されるかもしれない。それを思うと果敢に内角を突くことに及び腰になる。そこで自然と外角中心の投球になるわけだが、直球だけで仕留められる投手はそうはおらず、おのずと変化球が軸になる。この外に逃げていく変化球を捉えるために打者はミート優先の小さい打撃になっていった、といえるのではないか。

力勝負で培われた迫力のスイング

こういう見方を紹介すると、「パの投手は打席に立たないから思い切って内角勝負ができる」と思われるかもしれないが、そう単純な話でもないだろう。打席に立たないことで自身はぶつけられる心配はないものの、味方の野手が報復される恐れがある。結局のところ、相手打者にぶつけるメリットは何もないわけだが、かといって安全に外角ばかりに投げていたのでは狙い打たれる。そこでパの投手たちが選んだのは外角への変化球でなく、内角ぎりぎりに決める制球力をつけることだったように思う。

160キロ台の剛球を投げるソフトバンク・千賀はパ・リーグのパワー野球の代表格だ=共同

近年、米大リーグに渡ったダルビッシュ有や田中将大、菊池雄星、大谷翔平などの実力者はいずれもパ・リーグから巣立っていった。今なら千賀滉大(ソフトバンク)や山本由伸(オリックス)がそれに続く剛腕の代表格。彼らは制球を磨き、打者の内懐めがけて150キロ超の速球をどんどん投げ込んだ。打者としては、外角球ならちょこんと当てて安打にすることができるが、内角球には「ごまかしスイング」は効かず、しっかり振り切らなければ内野手の頭を越すこともできない。中村剛也や山川穂高(いずれも西武)、柳田悠岐(ソフトバンク)、中田翔(日本ハム)、吉田正尚(オリックス)らの迫力満点のスイングは、内角を巡る力勝負に負けまいという強い意識からも培われた。

鋭いスイングは、人気がなかったパ・リーグの歴史が生んだともいえるかもしれない。かつてのパはテレビ中継がほとんどなく、観客動員も少なかった。少々安打を打ったくらいではメディアに取り上げられることもない。どうすれば目立てるかと考えた結果が、長打、ひいては本塁打を打つことだった。こうして、スラッガーでない打者もフルスイングを心がける土壌が築かれていったと考える。

ソフトバンクは日本シリーズで2年続けて無傷の4連勝と圧倒的な強さを示した(11月25日)=共同

投手も打者も満身の力を振り絞る勝負が常のパ・リーグを制したソフトバンクが、おとなしくなったセ・リーグを代表する巨人をねじ伏せたのは当然といえるだろう。昨年から日本シリーズ0勝8敗で巨人は恥をかいた格好だが、その巨人に勝てなかったセの5球団はより反省が求められるのではないか。

結果に目をつぶってでも過程を大事に

容易には埋めがたいパ・リーグ勢との差。それを縮めていく第一歩として、しっかりしたスイングを何打席できたかを指標にしてはどうか。狙い球を絞り、それに対してミートポイントまでしっかり呼び込んできっちりスイングする。そういう打席を重ねていけば、おのずと結果はついてくるもの。1ストライク目から難しい球にちょこんとバットをあわせて安打になっても、後々の成長にはつながりにくいだろう。重視すべきは、安打が出たかどうかの結果ではなく過程。たとえ凡飛に終わっても「今のはオッケー」と言える度量がコーチには欲しいところだ。

交流戦を増やすのも手だろう。新型コロナウイルス禍で試合数が減り交流戦がなかった今季は別にして、これまで1チームあたり18試合だった交流戦をかつての24試合や36試合に戻し、セ・リーグ勢がパ・リーグ勢に挑める機会を増やすのだ。セ側の劣勢は簡単には変わらないだろうが、シーズン中盤でパとの力勝負に慣れておけば、秋の日本シリーズで伍(ご)することにもつながるはず。大きな実力差があることがはっきりした以上、セ・リーグにはパ・リーグに弟子入りするくらいの姿勢であらゆるものを吸収していってほしい。

(野球評論家)

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