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厚底シューズの恩恵を生かす 理想のフォームとは

ランニングインストラクター 斉藤太郎

トップアスリートから市民ランナーまで厚底シューズの人気は高まっている(10月の箱根駅伝予選会)=共同

厚底シューズによるマラソンや長距離の好記録が続出しています。世界陸連からはロードレース、トラックレースそれぞれに使用するシューズの規定が設けられ、ソール(靴底)の厚さと使用の可否がリストとして公開されるまでになりました。衰えを知らないブームの中、今回は厚底シューズの機能とそれを生かすフォームについて考えてみたいと思います。

まず、ランニング中の足運び動作の解釈を2つ提示します。

「接地点(足・シューズ)」にフォーカス

脚を長い1本の棒にたとえて考えてみます。棒高跳びのように棒(脚)を接地させることで体を前方に移動させる動作を、2本の脚を使って交互に繰り返します。スピードを追求するには、棒(脚)が前へスイングする速さと棒の最上部(骨盤)の前方移動、接地ポイント(足)が沈まずにもたつかないこと、接地点から棒が抜けていく(足が離れていく)際の反発力などが重要な要素になります。

「脚の振り子運動の起点=骨盤」にフォーカス

前に振り出された足が骨盤より前方で地面を捉えます。そこから骨盤の真下に足が来て、骨盤後方で地面から足が離れます。スピードを追求するには、後ろに抜けた足が素早く前に引き付けられること、骨盤の位置は足が描く回転軌道の上側中央よりも前にあることなどが重要になります。

厚底シューズで好走するランナーを見ると、前に振り出された足は骨盤のやや前方、真下に近い位置で接地しています。直ちに骨盤は接地位置よりも前に移動、同時進行で足首と膝関節が屈曲します。固いスプリングが押しつぶされてエネルギーを蓄えるように、骨盤の位置は若干沈みながら前へ移動します。厚底ソールにサポートされて、かかとへの衝撃が軽減されます。

厚底シューズは「かかとは厚くてつま先は薄い」。この「前に滑り落ちやすい」構造に助けられて前方移動がしやすく、アキレス腱(けん)やふくらはぎへの負担も軽減されます。骨盤が前へ移動しながら、つぶされたバネが元に戻るように膝を伸展。足が地面から離れる局面では、ソールに内蔵されているプレートの張力により、プラスチック定規をしならせるような形で地面を踏み切ります。このメカニズムが、大きく跳ねるように前へ進む背景にあります。

ここで人種による体の違いについて考えてみたいと思います。

欧米人やアフリカ系のランナーの特徴

・骨盤の前傾と腰椎のカーブが強く、体のバランスを前方に崩すことがしやすい

・容易に足を踏みつけることができるので、ももを上げる意識を持って走ることが好ましい

以上の点から、厚底シューズを履かずとも前に進みやすい骨格の体形が備わっているといえます。

日本人ランナーに多い特徴

・骨盤の前傾があまりない。腰椎のカーブは弱く、直線に近い。よって体のバランスを前方に崩しにくい

・脚を上げる意識が強いと骨盤が後傾し、前方への体重移動が遅くなる

そんな日本人特有の骨格のランナーが厚底シューズを履くとどうなるか。前述したように、ソールはかかと部分が厚く、つま先に向かうに従って薄くなっている構造から、以下のようになることが考えられます。

・かかとの位置がかさ上げされたような状態になり、バランスを前方に崩すことをサポートしてくれる

・接地後、足(くるぶし)の真上に重心が移動するのが速くなる。重心移動の際にふくらはぎやアキレス腱への負担が少なくなると思われる

良い意味で骨格(立ち姿勢)が変わることから、一般的な日本人ランナーは特に厚底シューズの恩恵を受けやすいと考えます。

日本人特有の骨格のランナーは厚底シューズの恩恵を受けやすいと考える(12月6日の福岡国際マラソン)=共同

一方で、骨盤が後傾していたり、かなり猫背になっていたりする方は接地後の骨盤の前方移動に時間がかかり、厚底シューズの恩恵を十分に受けることができません。どうしたらシューズの機能を生かし、楽に前に進むことができるでしょうか。

真っすぐになった上体が前に倒れることで足運びをリードする走り方が理想ですが、前への推進力を生む前傾姿勢をキープするには、おなかを包む腹横筋がしっかりと働かなくてはなりません。体幹を強化し、理想的な前傾姿勢をつくることにつながる「飛行機エクササイズ」のトレーニングを紹介します。片足スクワットの姿勢で体を前傾させ、両手を広げて10秒間キープ。腹横筋、でん部、ももの裏を使います。頭が接地足より前にあるので、足の指に体重が乗ります。この体勢をぐらつかずにできれば合格。青山学院大学の選手はこのやり方に加えて両腕を同時に後ろ回しするトレーニングをしていました。

厚底シューズを履くことで上下動が大きくなり、従来使っていた筋肉が衰えていったり、着地時の小さなひずみが蓄積することでケガにつながったりすることが考えられます。飛行機エクササイズに加えて、素の足で走る感覚のシューズで、もともと備わっていた脚力を整えるようなランニングもするとよいでしょう。

レースのテレビ中継ではよく足運びがアップで映りますが、足の着地ばかりに関心を向けるのではなく、「体幹」部分と「頭」までも含めた上体がどういった位置にあるのか、上体の軸の角度はどうなっているのか、といった広い視野でフォームを見るようにしましょう。

さいとう・たろう 1974年生まれ。国学院久我山高―早大。リクルートRCコーチ時代にシドニー五輪代表選手を指導。2002年からNPO法人ニッポンランナーズ(千葉県佐倉市)ヘッドコーチ、19年理事長に就任。走り方、歩き方、ストレッチ法など体の動きのツボを押さえたうえでの指導に定評がある。300人を超える会員を指導するかたわら、国際サッカー連盟(FIFA)ランニングインストラクターとして、各国のレフェリーにも走り方を講習している。「骨盤、肩甲骨、姿勢」の3要素を重視しており、その頭の文字をとった「こけし走り」を提唱。エッセンシャル・マネジメント・スクール特別研究員。著書に「こけし走り」(池田書店)、「42.195キロ トレーニング編」(フリースペース)、「みんなのマラソン練習365」(ベースボール・マガジン社)、「ランニングと栄養の科学」(新星出版社)など。

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