京都国際舞台芸術祭、関西色強めて再始動
文化の風

KYOTO EXPERIMENT 2021 SPRING(京都国際舞台芸術祭=KEX)が先月末、約2カ月間の会期を終えた。2010年から世界の先鋭的な舞台作品を上演してきた同芸術祭。今回新たに就任した3人の共同ディレクターによる体制の下、関西拠点のアーティストを中心に新生KEXの姿をアピールした。
即興で観客と一体感
舞台上には20人を超えるメンバーとゲスト参加のいとうせいこう。1人の青年が突然つぶやく。「ガタンゴトン」。すかさずその声に合わせてドラマーがリズムを刻み、他のメンバーも続く。演奏が高まる中いとうが「どこに向かいますか」と問いかける。「次は、京都、京都です」の声に「私たちは自由に旅をしています」といとう。いつしか観客も拍手でリズムをとっている。偶発的に発せられた一言から、客席も巻き込んだセッションが自然に生まれた瞬間だった。
京都府立府民ホールアルティ(京都市)で行われた神戸を拠点とするアーティスト集団「音遊びの会」による即興パフォーマンス「音、京都、おっとっと、せいこうと」の一場面。メンバーには知的障害のある人もいる。これまで即興音楽を軸にした表現活動を行ってきた。今回、2時間の「音と言葉のセッション」を繰り広げた。
長年、大阪を拠点に前衛的な音楽を生み出してきた山本精一による音楽プログラムはロームシアター京都(同)で上演された。ギタリストの大友良英ら30人以上のアーティストを集め、3時間の即興セッションを展開。両公演とも観客の目の前で新たな音楽が立ち上がる瞬間を感じられる即興演奏ならではのスリリングさ、舞台芸術としてのダイナミズムを感じさせた。
昨秋の開催を予定していたが新型コロナウイルス禍で延期した。今回の全10作品のうち4つが関西のアーティストによるもの。コロナ禍の影響とは別に新ディレクター陣が当初から計画していた。
芸術祭の役割を問う
KEXは立ち上げから10年、ロームシアター京都の橋本裕介がディレクターを務めてきたが今回から「多様な芸術的視点の確保」などを目指して共同ディレクター制へ移行。KEXの制作や広報に携わってきた川崎陽子、ジュリエット・礼子・ナップとアーティストの塚原悠也が就任した。
近年は世界的に舞台芸術を扱う芸術祭が増えており、注目のアーティストの作品を国や地域を越えた複数のフェスティバルが共同制作する例が多くなっている。「同じ作品が世界を巡回し消費されることで、上演と芸術祭が行われる地域のつながりが薄くなっている」と川崎。世界の最先端の作品を紹介する芸術祭としての役割は踏襲しつつ「関西の舞台芸術をもう一度見直し、発展させる」狙いで、関西のアーティストを起用した。
海外アーティストについても「国際的なマーケットに流通する完成した作品を持ってくるだけでなく、ディレクターやスタッフが上演までの過程でアーティストと深く関わりながら京都や関西で見せる意味を出していきたい」と塚原。今回は図らずも「コロナ禍に対応した作品にするための試行錯誤で、アーティストと互いに介入しながらの制作になった」(同)という。
作品に関連するレクチャーやワークショップも充実させている。フェスティバル側が作品によって答えを提示するのではなく、観客自身が「作品同士の関連性や共通するテーマなどを見つけ、考える場にしていきたい」(ナップ)。21年度は10月1日から24日間の日程で開催する。
(佐藤洋輔)

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