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水底探って70年 淀川のシジミ漁 

匠と巧

「ジョレン」を使ってシジミを取る松浦万治さん=大岡敦撮影

大阪市を貫く淀川下流はシジミの好漁場。水揚げこそ少ないが、大粒で鮮やかな色彩から「べっ甲シジミ」の愛称で重宝される。漁師歴70年の松浦万治さん(85)は日々流れに身を浸し、熟練の技で水底を探る。

阪神姫島駅から南へ歩いて5分ほど。河畔に係留した小型船に乗り込むと、松浦さんがエンジンをかけた。風を切り上流へ。青空の下、はるか右手に梅田の高層ビル群を望み、左手の河川敷からは少年野球の歓声が響く。頭上を走る列車の轟音(ごうおん)を聞きながら鉄橋をくぐり、一面にヨシが生い茂る水路状の場所に到着した。

松浦さんは手早くイカリを下ろし、胸まである胴長靴を装着する。「これ重いんや。でもやっぱり水の中は冷たいねん」。太い針金を編んだかごを長い柄の先に付けた漁具「ジョレン」を手にし、水中へじゃぽんと飛び込む。深さ70、80センチほどだろうか。意外と澄んでいる。目を凝らすと、川底に沈む無数のヨシの枯れ葉が見て取れる。

へその辺りまで漬かった松浦さんがジョレンで水底をさらい、力強くすくい上げる。水面でばしゃばしゃ揺らし、砂を落とす。「ほら、ぎょうさん取れたで」。ジョレンの中はヨシの枯れ葉に交ざり、べっ甲色の輝きが確かにぎょうさん。

熟練の技は一見して無造作にも映る。水中で意識するのは足の裏だという。その日の水底の状態をまず感じ取る。ヨシの枯れ葉、貝殻、砂、そしてシジミの層が重なる。どのあたりをすくうか。浅すぎては枯れ葉や貝殻ばかり、深すぎると砂が増える。水温の高い夏場ならシジミは浅い層に出てくるし、冬は深く潜る。

足裏、そして両手で握ったジョレンから伝わる水底の感触。温度と湿度、天候、それに長年の勘も加味し、シジミの層を的確に探り当てる。砂は重いし、水は冷たい。「でも冬の方がな、シジミも栄養ため込んで味も濃くなってうまいんや」

シジミといえば島根・宍道湖産のヤマトシジミが有名だが淀川産も種類は同じ。一般にシジミは泥が多いと貝の表面が黒っぽく、砂が多いと茶色くなる。淀川産はスーパーなどで見かける小粒の黒いシジミに比べると、一回り以上大きく茶色が目立つ。高級料亭でも珍重される。

松浦さんは中学の卒業前から漁を始めた。多い時で40人ほどいた漁師仲間も高齢や転職などを理由に次々と漁場を去り、今は数人。護岸工事が進んでシジミの漁場も減った。最近は一度の漁で数十キロ取るが、昔は1日で1トン近く水揚げしたこともあるという。「シジミの重さで船が沈みそうやったわ」。遠い視線でイカリを上げた。

船での帰路、松浦さんが行く手の水面を指さした。波間に浮標。「タンポ」という筒状の漁具が仕込まれている。船を止め、慣れた手つきで引き上げる。狙いはウナギだったが「ハゼばっかりやな」。再びエンジンをかける。「冬の間、新しいタンポをいくつもこしらえてな、ジョレンも新しいのにして、船底のペンキも塗り替えるねん」。85歳。松浦さんの漁は終わらない。

(田村広済)

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