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松田正隆、10年ぶり京都で新作 演劇の本質探る

文化の風

美術や小道具のないシンプルな舞台で上演された「シーサイドタウン」=中谷 利明撮影

1990年代から20年以上、京都を拠点に活動した劇作家・演出家の松田正隆が新作「シーサイドタウン」を1月下旬にロームシアター京都(京都市)で上演した。京都での新作上演は10年ぶり。近年は物語の要素を排し、演劇の本質に迫る実験的な作品を制作してきた松田。新作ではその成果を用いて故郷長崎の日常を描いた。

情報排した舞台

シンジが長崎・平戸に帰郷する。隣の一家はJアラートの訓練にいそしみ、静かな日常の隙間から全体主義の雰囲気がのぞく。そんな町のムードと距離を置きシンジに妄想気味の主張を語る男トノヤマ。Jアラートの合同訓練が行われた昼下がり、トノヤマは凄惨な事件を起こす。シンジはトノヤマから聞いた言葉と事件の関係に思い当たるが、凡庸な日常は静かに時を進めている――。

そんな物語を松田は、小道具や美術のない舞台で、俳優が無表情のまま抑揚のない言葉を発するよう演出した。隣家の住人が交わす挨拶も、凄惨な事件を知る場面も、俳優は感情やニュアンスを排し、同じトーンでセリフを放つ。

観客の再構築促す

情報がそぎ落とされた上演を見続けるうち、観客はいや応なく頭の中で物語を組み立て直しながら鑑賞する。すると演出家や俳優が完成形として提示する物語の理解や作中人物への感情移入とは違う回路で作品世界を体験として了解できたように感じられる。

松田は日常を自然な会話で描く戯曲で注目を集めたが、徐々に作風を変え、現在は実験的な作品に取り組む。演劇は一般に物語をリアルな演技で再現しようとするが、近年の松田は物語性から距離を置いてきた。

「コントや寸劇が始まる瞬間」(松田)のように、何もない舞台に俳優が立つだけで上演空間が立ち上がること。それを「演劇」の本質と位置づけ、追求する取り組みは高く評価されるが、実験性の強さから必ずしも多くの観客を前提とする作品ではなかった。今回、初期作にも通じる物語と組み合わせた形で上演されたことで、松田の演劇観がより多くの観客に理解される機会になったに違いない。

ロームシアター開館5周年

「シーサイドタウン」はロームシアター開館5周年記念事業の一環だ。同ホールはこの5年、先鋭的な自主企画を相次ぎ制作。関西では数少ない全国区の発信力を持つ舞台芸術の創造拠点としての地位を築いた。

その成果は「公共劇場の使命は、時代を経ても繰り返し上演できる作品を残すこと」(プログラムディレクターの橋本裕介)という劇場の姿勢のたまものだろう。象徴的なのが「レパートリーの創造」と銘打たれた作品群。「シーサイドタウン」はその4作目。すでに木ノ下歌舞伎「糸井版摂州合邦辻」が他劇場でも再演され、フランスのジゼル・ヴィエンヌらによる作品も海外での再演が決まるなど、実績を残している。

強みの一つが他の公共ホールに比べ現場の制作スタッフの発想やアイデアを起点に企画が実現しやすい組織体制。制作に関わる人材が「見識とスキル」(森山直人・京都芸術大学教授)を十分に発揮している。

気がかりなのが、この1年混乱が続いた館長人事だ。2020年4月に予定していた劇団「地点」代表、三浦基の就任が元劇団員とのパワハラ・不当解雇を巡る係争を理由に取りやめに。選考過程や元劇団員への対応を巡って京都市の問題点が指摘されている。信頼回復に向けて一連の対応や新たな館長像について早急かつ慎重な議論が必要となる。

(佐藤洋輔)

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