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世界の崩壊と無辺の憧れ(音楽評)

飯守泰次郎×関西フィル「ワーグナー特別演奏会」

池田の情感豊かな表現が光った=大阪国際フェスティバル提供©森口ミツル

飯守泰次郎指揮による関西フィルハーモニー管弦楽団創立50周年記念のワーグナー特別演奏会。大阪国際フェスティバルの主力企画にふさわしい圧倒的名演となった(1月23日、大阪市のザ・シンフォニーホール)。

冒頭の「タンホイザー」序曲からして別世界に連れ去られた。濃密で有機的な響きの宇宙。各主題間の絶妙な移行をへて、慌てず騒がず終結の巨大なアーチを築く。オルガンのような和音の減衰に鳥肌が立った。池田香織が登場し、「歌の殿堂のアリア」を情感豊かに表現。メゾの響きを基調に、最高音まで間然する所がない。クップファー=ラデツキーの「夕星の歌」はやや楷書的だが格調が高い。「トリスタンとイゾルデ」前奏曲は、純粋なものたちの呼びかけ合いで構成され、最強音でも透明。様々な楽器の重なりと動きが手に取るように見える。池田の「愛の死」では共感覚の美的変容が輝いた。弱音と音色の変化を駆使できれば完璧だ。

「ニーベルングの指環(ゆびわ)」から「ワルキューレの騎行」、「ヴォータンの別れと魔の炎の音楽」、「ジークフリートの葬送行進曲」と進むうちに、綜合芸術の一部を切り取ることの妙を会得した。細部にエッセンスが反映し、作品の全体像が想像力の中で可視化される。断片が結晶として煌(きら)めく。ワーグナーの音楽とドラマと舞台の一切を知悉(ちしつ)した飯守にしかできない神業である。

「ブリュンヒルデの自己犠牲」を自家薬籠中の物とした池田の大器に感服した。世界の崩壊と真実界への無辺の憧れ。ライトモティーフの壮大な編み物を魂の奥底から表出した関西フィルの献身的熱演に感謝しかない。

(音楽評論家 藤野一夫)

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