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仏像2体制作 奈良に恩返し 籔内佐斗司さん

関西のミカタ 彫刻家・東京芸大大学院教授

やぶうち・さとし 1953年大阪市生まれ。東京芸術大学美術学部彫刻科卒業、2004年同大学大学院美術研究科教授。文化財保存修復を研究する傍ら、奈良県マスコットキャラクター「せんとくん」を考案。彫刻家として平櫛田中賞ほか多数受賞。

■古い寺がなお存在感を放つ奈良。稚気を通して東洋的自然観を造形する彫刻家の籔内佐斗司さん(67)は、奈良を代表する古刹に相次ぎ仏像2体を制作、かねて抱いてきた愛着と敬意を手向けた。

唐招提寺に凝然(ぎょうねん)国師、西大寺に道鏡禅師を制作した。偶然、別々の経路からお声がけいただいたが、いずれも南都屈指の古刹。国宝・重要文化財の仏像が並み居る中に自分の手掛けた像が奉納されるのは、彫刻家として光栄だ。この春で私は東京芸大教授を引退するが、最後の年に記念となる幸運に恵まれた。

道鏡禅師坐像(西大寺蔵)

■18歳で東京芸大に入って半世紀。東京暮らしが人生の4分の3にまでなるが、ふるさとの大阪や、幼い頃重ねて訪れた奈良には、離れていてもなお近さを感じている。

奈良の古い寺は、質素なたたずまいで、田んぼを歩いて壊れた土塀から入った記憶がある。今でこそ東塔西塔が整備され、往事の伽藍(がらん)もかくや、と変貌しているのが感慨深い。東大寺大仏殿で(関西の幼い子ならおなじみの)柱の穴くぐりもした。

■制作した2体のうち、天皇の座をうかがったとされる古代の僧・道鏡はよく知られるが、もう一方の凝然は知名度が低い。

私自身、道鏡といえば、いわゆる悪僧のイメージしか持っていなかった。それが造像依頼がきっかけで八尾市の由義寺跡ほかゆかりの地に足を運ぶうちに、認識が塗り変わった。道鏡が見直されて愛される人物になるのなら、そのお力になりたい。道鏡には何か近寄りがたい崇高さが必要と考え、美しさを強調した。

一方、凝然は鎌倉期の学僧で、今もなお僧侶や仏教思想家の必読書である「八宗綱要」を著した。南都六宗(倶舎(くしゃ)宗、成実(じょうじつ)宗、律(りっ)宗、三論(さんろん)宗、法相(ほっそう)宗、華厳(けごん)宗)に平安時代の真言宗・天台宗を加えて、それまでの日本仏教史を概説している。東大寺を拠点に、唐招提寺の住職も務めた。南都仏教復興の立役者の一人だ。

学識豊かな人物だったに違いないが、努力家。身近にいてもおかしくない。そんな血の通った人間味を出したかった。幸い、参考にできる絵画が東大寺にあった。高齢な姿で、それを参考につくろうとしたら、依頼主の西山明彦(みょうげん)唐招提寺長老から「30代の壮年期で」と注文がつき、若返らせた。すでに奉納され、3月27日に開幕する京都国立博物館の特別展「鑑真和上と戒律のあゆみ」に出展される。

「凝然国師坐像」(唐招提寺蔵=若松 保広撮影)

■籔内さんの少年時代の原風景はかつて住んでいた堺市から高石市にかけて白砂青松の広がる浜寺公園という。

それは風光明媚(ふうこうめいび)な景観だった。国際的リゾート地にさえなり得たと思うが、あいにく埋め立てが進み、日本有数の臨海工業地帯になった。父が現在の日本製鉄に勤めていた。製鉄所は確かに戦後の高度経済成長を引っ張ったに違いない。おかげで確かに堺市も財政的に潤っただろうが、今は高炉の火が消えている。たかだか30年ほどの稼働で歴史的使命を終えたとすれば、引き換えにかけがえのない生態系と浜辺の景色を失ったのをどう考えたらよいか。

大阪は旧国名でいうと、摂津・河内・和泉の3カ国からなり、それぞれ歴史に根ざした誇りを持つ。個性は都市化で薄れてきたものの、ことばも微妙に違えば、文化的にも本来は異なる。互いに尊重し、主張し合うのが、魅力ある都市圏の発展につながるのではないか。昔はこんなことを言うご意見番のような人がいたが、めっきり聞かなくなったのが寂しい。

それに比べて古いものが多い奈良の良さは何とか残してほしい。ただ注文をつけるなら、観光地としては飲食店、宿泊施設が弱いのが難点。ナイトライフがないので、県外に宿泊客が流れている。なお改善の余地がある。

(聞き手は編集委員 岡松卓也)

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