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希代の男役、集大成の風格 宝塚星組「婆娑羅の玄孫」

宝塚歌劇団の男役の代表である轟悠(とどろきゆう)。10月に退団を控える彼女が、星組公演「婆娑羅(ばさら)の玄孫(やしゃご)」で集大成の舞台に臨んだ(大阪市の梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで7月13日所見)。雪組のトップスターを経て専科へ異動し、さらなる高みを目指してきた轟が、最後の男性役で、男役の枠を超えたような存在感を見せた。

1985年の初舞台作「愛あれば命は永遠に」も手掛けた植田紳爾が作・演出した日本物。「婆娑羅大名」と呼ばれた佐々木道誉(どうよ)の子孫・佐々木高久は、身分を隠して細石蔵之介と名乗り、江戸・神田の長屋で暮らしているが、お家の危機を救うため、長屋の人々に別れを告げる。新たな人生の門出を描く人情劇だ。

子供たちに学問や剣術を指南し、周囲から「石さん」と慕われる蔵之介。轟自身の愛称も「イシさん」で、轟が歌う主題曲が「轟く我が心」などと、惜別の情を込めた当て書きの趣向に愛がある。

長屋のお鈴と一緒に「神田祭」の場面で軽快に踊り、幼い姉弟の仇(あだ)討ちを助け、勧善懲悪の立ち回りを繰り広げる。往年の痛快娯楽時代劇を見るようで、義侠(ぎきょう)心溢(あふ)れる華美な着物姿の好男子を、轟が時代劇俳優にも似た風格を漂わせながら闊達に体現。自らを廃嫡にした父への愛憎や葛藤も映し出し、明朗かつおおらかな芝居で惹(ひ)きつけた。

お鈴の音波みのりが快活で愛らしく、佐々木家用人・小久保彦左の汝鳥伶(なとりれい)に滋味がにじむ。

轟は「風と共に去りぬ」のレット・バトラー、「凱旋門」の亡命医師ラヴィック、「チェ・ゲバラ」や「エリザベート」のルイジ・ルキーニなど、実在感に富む演技で一線を画してきた。今後はディナーショーを残すのみで、静かに宝塚を去る。誠に惜しい退団だ。

(演劇評論家 坂東 亜矢子)

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