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いずみホール30周年、新たな音楽の軸追求

文化の風

飯森指揮のもとISOがモーツァルトや現代音楽を演奏した(©樋川智昭)

住友生命いずみホール(大阪市)が30周年の節目に転機を迎えている。開館当初からホールの企画力を底支えしてきた世界的な音楽学者の礒山雅が2018年に死去したのを受け、後任として4月に音楽学者の堀朋平を新たに音楽アドバイザーに迎える。今後は新たな音楽の軸ができそうだ。

1年遅れの演奏

新型コロナの感染拡大防止で1年延期となっていた開館30周年記念コンサート「to the NEXT!」が3月25日に催された。まず演奏されたのは、ホールの顔であるパイプオルガンによるバッハの「G線上のアリア」「トッカータとフーガニ短調」。学生時代からホールのオルガンに親しんできたオルガン奏者、冨田一樹による重厚感ある演奏だった。

次いで、座付き楽団であるいずみシンフォニエッタ大阪(ISO)によるベートーベンピアノ協奏曲第5番「皇帝」と、同楽団の音楽監督である西村朗の「ベートーベンの8つの交響曲による小交響曲」。後者はベートーベンの第1~8番の旋律をちりばめた遊び心のある作品だ。最後は飯森範親指揮の熟練のモーツァルト「ジュピター」で幕が下りた。

バッハとモーツァルトという古典中の古典と座付きのISOによる現代作品という2本柱で構成されたプログラムは、まさにいずみホールの30年を凝縮したものだ。

バッハとモーツァルトは、1990年の開館以来約30年間ホールの音楽ディレクターを務めた礒山の専門。7年がかりでバッハのオルガン作品全曲演奏会をやり抜いたり、バッハの声楽作品で学説をもとにした新スタイルの実演を試みたりと、独自の企画で存在感を発揮してきた。

ロマン派に造詣

だが、18年に礒山は不慮の事故で死去。生前関わった企画は今年2月のバッハ・コレギウム・ジャパンによる「ヨハネ受難曲」が最後だ。音楽学者で礒山の弟子の堀が4月に音楽アドバイザーに就任し、企画作りの体制が一新する。

初年度は「ホールの原点に立ち返る」(堀)として、「モーツァルト―歌い継ぐ、至純の音」と題し6公演をモーツァルト作品に当てる。1年目はまずは礒山路線を継承した形だ。ただ、堀の専門はシューベルトで、ロマン派に造詣が深い。「ロマン派は孤独を愛する音楽。礒山は『シューベルトはモーツァルトの納豆だ』と言っていた。モーツァルトの楽曲がよりドロドロした形で表れるのがシューベルト。互いに通じるものがある」(堀)。来年度以降、ロマン派の企画などを取り上げる考えで、堀のカラーが出る日は近そうだ。

いずみホールの独自性を支えるもう一つの柱が、委嘱新作を含む現代作品だ。ISOの年2回の定期演奏会は、作曲家の川島素晴をプログラム・アドバイザーに迎えての癖のある選曲に根強いファンがつき、ホールを関西の現代音楽の拠点たらしめてきた。「伝統芸能と同じで、現代作品のないホールは水の流れが止まって死ぬ。他では聴けない作品を磨き上げられた演奏で聴いてもらうことが第一だ」(西村)

いずみホールが約820席と決して大きくはない規模ながら、30年間確固たる存在感を発揮できたのは、企画力ゆえだ。古典作品にせよ現代作品にせよ、中長期で一貫性のある企画が地域の聴衆の耳を育ててきた。ホールの成長は、聴き手の成長と表裏一体だ。次の10年20年で、聴き手との関係にどれだけ新しいものを加えられるか。公演の都度の成否とは異なる視野が、新体制に求められている。

(山本紗世)

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