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苦しみ越える、再建の物語(演劇評)

兵庫県立ピッコロ劇団「波の上のキネマ」

苦難の中で希望となる映画や音楽の力が描かれた =森口 ミツル撮影

「(音楽を奏でるのは)信じるためですよ。この世界が美しいものだと」。兵庫県立ピッコロ劇団の「波の上のキネマ」(2月21日、兵庫県西宮市の県立芸術文化センターで所見、増山実原作、岩崎正裕脚本・演出)は、困難に直面した現代人の心に訴えかける台詞(せりふ)と歌に満ちた舞台。

尼崎の小さな映画館。経営難で窮地に立つ館主・俊介(三坂賢二郎)を、台湾から来た彩虹(孫高宏)が訪ねる。互いの亡き祖父が、戦前、西表島の炭鉱労働者仲間だったという。二人は祖父達の苦難の足跡を辿(たど)る。

過酷な労働とマラリアで次々に死んでいく鉱員達。俊介の祖父・俊英(三坂賢二郎)らは、密林の中の映画館で束(つか)の間の喜びを得る。資本主義の歴史の暗部を突く物語だが、俳優達がチャップリンの「街の灯」など、映画の名場面を演じ、ロマンが溢れる。鉱員達の歌う「埴生の宿」と、俊英が心を寄せる那覇の遊郭の少女・チルー(鈴木あぐり)達が歌う沖縄民謡が重なる場面が美しい。離散した孤独な魂が、一つになる。

絶望する俊英の心を、志明(彩虹の祖父)が支え、死んだ仲間達も夢の中に現れて励まし、ついに脱走に成功する。

再会と再建のドラマだ。俊英はチルーと再会し結婚、戦後の苦難を乗り越え尼崎に映画館を建てる。志明とも戦後に再会。俊介は、祖父の築いた映画館の再建を誓う。終景では、老いたチルーが幻の中で俊英と再会。若い姿となって車椅子から立ち上がる。

希望を見失い、力尽きた時、亡くなった人が道を照らしてくれることもある。もう一度夢を見る力。新たに人と出会う力。再建する力。それを信じたくなる劇だった。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼葉子)

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