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会場に漂う異様な雰囲気(展覧会評)

大阪歴史博物館「あやしい絵展」

月岡芳年「『魁題百撰相』のうち 辻弥兵衛盛昌」(1868年、町田市立国際版画美術館、展示は8月2日まで)

特別展「あやしい絵展」が、8月15日まで大阪歴史博物館で開催中。「美しい」という言葉だけでは言い尽くせない作品を、「あやしい絵」として紹介する展覧会である。展示作品は幕末から昭和初期に描かれた絵画が中心で、特に制作時の社会状況が読み取れるものが選ばれている。

その一つが、月岡芳年の「魁題百撰相 辻弥兵衛盛昌」である。ここで描かれている辻弥兵衛は、かつて武田勝頼の家臣だった。ところが天正10年(1582年)、勝頼が織田信長と徳川家康の連合軍により天目山の戦いで敗れる。その結果、武田家は滅亡し、敵方兵士が信州で乱行を働いた。そこで生き残った辻弥兵衛が、その兵士たちから民を救った。画面右上にこのように記されている。

しかし、この絵に描かれているのはそれだけではない。当時の社会状況も描かれている。

これが描かれたのは明治元年(1868年)。戊辰戦争で新政府軍と旧幕府軍が激突し、江戸では上野の寛永寺が戦場となっていた。この戦いの際、数え年で30歳だった芳年はその現場に出向き、実際に惨状を見ている。つまり、これは芳年の取材に基づいた絵なのである。

この絵では辻弥兵衛が血だらけで描かれている。唇は青く、傷が深いことが分かる。しかし、その目は上方を強く見つめている。その対比にこそ、この絵の「あやしさ」がある。芳年は戦場で感じたことを、あやしさに変えたのである。

この「あやしい絵展」の展示作品には妙な迫力がある。そのため会場には異様な雰囲気が漂う。会場を出た後、不思議な疲労感が残る展覧会である。

なお「魁題百撰相 辻弥兵衛盛昌」の展示は8月2日まで。

(大阪芸術大学教授 五十嵐 公一)

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