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佐々木能衣装 幽玄の衣、符合する模様

匠と巧

現在も職人が手織りで能装束を織り上げている(京都市上京区)

能楽師が身にまとう能装束は役柄の性別や年齢、性格や職業などを表現する大事な要素だ。京都で唯一、その能装束作りを専業とする織元が西陣の佐々木能衣装(京都市)だ。手織りにこだわり1着に数カ月から1年かけて制作する能装束は、全国の能楽師や狂言師、歌舞伎役者に愛好されている。

高級絹織物の街、京都・西陣の一画にある昭和初期の京町家が、佐々木能衣装の社屋だ。細い通路を通り抜けた先にある木造平屋の工場に足を踏み入れると、まず目に付くのが高さ3㍍の巨大な織り機だ。木製のフレームに糸が複雑に張り巡らされている。

織り工程の職人である森純一さん(62)は唐織を手がける。主に女性役が着る色鮮やかな小袖だ。草木や花などの模様は、花びらや葉にあたる部分など、必要な部分にだけ染色した横糸を通すことで作る。「着物の前身頃を合わせたときに上側になる上前と背中に映える色がくるようにする。どの色をどこに使うかは職人次第だ」と森さん。

手織りで一番基礎となる技術が、糸を詰める作業だ。横糸を通し終えると最後にガッチャンと糸を詰めるが、その詰める際の力加減を常に一定に保つことが職人に求められる。「模様の出方はガッチャンの力加減次第だ」

たとえば、唐織などの装束では、大ぶりの模様が生地2枚にわたることがある。「生地は1枚ずつ別々に織る。常に一定の力であれば、2枚織り上がった際に模様がぴたりと合うが、そうでなければ完成したときに模様がずれて使い物にならない」。工場では別の職人が、紺色の亀甲模様の生地を織っていた。生地を指し示しながら、「力を入れすぎるとそこだけ六角形が横に潰れて、均等な図柄にならない」。

佐々木能衣装は「手機(てばた)」と呼ばれる手織りの織り機を使う。手織りは膨大な時間がかかるうえ、技術を持つ職人も少ない。品質にこだわる西陣であっても、横糸を通したり、できあがった生地を巻き取ったりといった一部の工程を機械化した力織機と呼ばれる織り機が現在の主流だ。佐々木洋次社長(64)は「手織りと似たものは力織機でも織れるが、違いは着る人には分かる」と語る。手機独特の質感を持つ織物は「価格が5倍くらいになる」という。

京都の片山九郎右衛門など各家の能楽師や狂言師、歌舞伎界では坂東玉三郎などが佐々木能衣装の顧客だ。顧客の感覚的な要望を丁寧にすくい上げて具体的な図面に落とし込むには知識と経験が必要だ。「注文主と感性が合うことが一番だ。そういう感性は普段の付き合いのなかで育つ」(佐々木社長)

かつては京都に数軒あったという能装束の専業織元は、今では佐々木能衣装1軒だけ。一度作った能装束は子や孫にも使われ、大切に保管されれば300年先まで残る。歴史を織り込んでいく、という誇りが職人に感じられた。

(山本紗世)

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