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シュトックハウゼン「マントラ」関西初演

文化の風

大井(右)と浦壁信二の演奏するピアノを客席の電子音響専門家が集音・変調しスピーカーから流す

現代音楽の大家であるドイツの作曲家、カールハインツ・シュトックハウゼン(1928~2007年)の作品「マントラ」が9日、芦屋市民センターのルナ・ホール(兵庫県芦屋市)で関西初演された。同曲はシュトックハウゼンが70年の大阪万博のため来日中に構想・作曲した作品。音楽と万博との結びつきを改めて見いだす公演となった。

京都や奈良で着想

普段のクラシック音楽の演奏会では見られない不思議な演奏風景だ。舞台上には、距離を置いて設置された2台のピアノ。ピアノには集音装置が取り付けられており、ピアノ音は演奏中にリアルタイムで変調され、舞台奥にそびえる高さ3㍍超のスピーカーから流れ出す。2人の奏者はピアノを演奏しながら、同時にアンティークシンバルやウッドブロックをたたき、時には椅子から立ちあがり能の謡のようなうなり声を上げる。長調とも短調ともつかないピアノと電子音の流れに突然打楽器の突き抜けるような音が差し挟まれ、どこか神秘的な印象だ。

シュトックハウゼンは20世紀を代表する現代音楽家の一人。40代前半で手掛けたマントラは70年の大阪万博で構想・作曲された現代音楽の伝説的な作品として知られるが、日本では作品の理解が進まず、演奏機会に恵まれなかった。そこで万博と同年開館のルナ・ホールは50年の節目にあたる昨年、記念演奏会の看板作品にマントラを選出。演奏会は感染症拡大防止で1年延期され、今年ようやく開催にこぎ着けた。

真言(マントラ)と題された通り、日本、特に関西と縁が深い曲だ。シュトックハウゼンが京都や奈良の古寺から受けたインスピレーションが作品に影響したともいわれる。とはいえ、日本の民族楽器を使ったり、わらべ歌のメロディーを取り入れたりというような、分かりやすい日本らしさのある曲ではない。

だが、演奏したピアニストの大井浩明は「素直に音に耳を傾ければ素朴な気づきもあるのではないか」と語る。「例えば、シンバルとウッドブロックは、おりんと木魚の音そのまま。座禅を組んで思索にふけりながら、ふと気が遠くなっていくのを描写しているような部分もある。作品中で何度も繰り返される特徴的なメロディーは演歌のコブシにも似ている」。13音からなる音の連なりを繰り返し変奏するという知的な遊びが織り込まれた難解な作品だが、「複雑な楽曲分析よりもまずは直感的に楽しんでほしい」との思いだ。

国が若手を後押し

70年の大阪万博は、歴史に名を残す著名な作曲家が一堂に会する現代音楽の祭典でもあった。西ドイツ館のシュトックハウゼンをはじめ、鉄鋼館では日本を代表する現代音楽家の武満徹が、せんい館では同じく現代音楽家の湯浅譲二が自作を披露した。

万博で活躍した作曲家は当時30~40代。万博は、国が莫大な予算を使って若手音楽家の演奏を前面に押し出したイベントでもあった。電子音楽の研究に携わる川崎弘二は「現代音楽が新しくて面白いジャンルだった時代だ。戦後の更地で新しい音楽を一から作ろうという意気込みで、万博を舞台に過去20年間の前衛音楽の総決算が行われた」と語る。

19世紀末のパリ万博では、ドビュッシーがインドネシアの音楽ガムランと出合い影響を受けた。いつの時代も万博は世界の最先端の音楽との出合いの場だ。マントラは、4年後の大阪万博でどんな音楽との出合いが待ち受けているかという問いかけも投げかけている。

(山本紗世)

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