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ジブリ名曲生んだ久石譲 70歳でオケ首席客演指揮者に

「新しいクラシックやる」日本センチュリー交響楽団で

映画音楽で長年活躍してきた久石譲

作曲家の久石譲が日本センチュリー交響楽団(大阪府豊中市)の首席客演指揮者に就任した。70歳にして、オーケストラの正式な指揮者ポストに挑戦する。

首席客演指揮者就任を間近に控えた3月、ザ・シンフォニーホール(大阪市)で久石と日本センチュリーのコンサートが行われた。演奏したのはモーツァルトの交響曲第41番など。久石の指揮は身ぶりや表情が豊かで、自ら音楽を楽しんでいる様子が自然に伝わってくる。満席の客席からは大きな拍手が返ってきた。

「作曲家としてクリエイティブな指揮がしたい。古典の繰り返しではない、新しいクラシックをやる」と久石は語る。今年度は定期演奏会を軸に指揮を執る。9月に2回、来年3月に1回、合計3回を大阪と京都で指揮する。ツアー公演などにも参加する予定だ。

久石は宮崎駿監督「風の谷のナウシカ」「もののけ姫」、北野武監督「菊次郎の夏」など数多くの映画音楽を手がけてきた。国立音楽大学の学生時代、単純な音型の繰り返しや微妙な音のずれを楽しむ「ミニマル音楽」に心酔し、現代音楽の作曲家として出発。その後、主戦場を映画音楽に移し活動してきた。オーケストラの指揮を本格的に始めたのは2000年ごろからで、指揮者としては遅いスタートだった。

「指揮することは作曲の時間を削ること」(久石)。今になって真正面から指揮に向き合うのはなぜか。きっかけをたどると米国の同時多発テロに行き着く。「現代音楽を作曲する中で、古典を否定して既成概念を壊すことが創作なんだと思ってきた。だが9.11の後、『今までの価値観では生きられない。否定の対象としてきた王道自体がなくなる時代になる』と感じるようになった。それならこれから自分は王道を行こう、クラシックの土台の上にいる自分を受け入れようと考えた」

以来、国内外の楽団で数多く指揮してきたが近年は「オーケストラとの一期一会にフラストレーションがたまってきていた」。「まだ管のアンサンブルがまとまってないというときでも、1回の指揮では直らない。オーケストラとより深い関係にならないと先に進めないと思った」

そこに19年、日本センチュリーが首席客演指揮者就任の誘いを持ちかけた。数年単位でひとつの楽団とじっくり音作りができるポストは最高の誘いだった。

決定的だったのは、日本センチュリーを「新しい感覚を持つオーケストラだ」と感じられたことだ。躍動的で骨太な演奏を尊重する久石にとって「(指揮棒を)振り下ろすとスパッと音が出る」のが良いオケの証し。特に2年前、日本センチュリーと演奏したジョン・アダムズ「ザ・チェアマンダンス」に手応えがあった。

日本センチュリー交響楽団を指揮する久石譲(3月24日、大阪市のザ・シンフォニーホール)

作曲家が本職だけに、経験の面で専業の指揮者には及ばない。「死ぬほどうまい指揮者が死ぬほどいる」のがクラシックの世界。久石が目指すのが「作曲家である自分にしかできない指揮」だ。「僕がやりたいのは新しいクラシック。古典を古典のまま古典っぽくやることではない。現代に生きる音楽、現代に聞くべき音楽のひとつとして、クラシックを提供したい」

ソナタや対位法などの枠組みがあるクラシック作品は、構造を分析することで、楽曲の全体像を解釈しなおすことができる。楽譜の音符や記号をきめ細かに読み取り、現代的なメッセージとして独自に読み直した指揮にこそ、作曲家としての強みが発揮できる。「10年後、20年後のスタイルを先取りする。それが作曲家ならではの指揮だと思う」

久石は商業音楽ではすでに世界的な成功と称賛を勝ち得ている。クラシック音楽の世界で指揮者としての力量を認められれば、音楽家としての名声は一段と高まる。20代から半世紀近く、「打ち壊すべき既成の権威」と否定してきたクラシックを受け入れた今、どんな新味を打ち出すかに注目が集まっている。

(山本紗世)

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