大阪4楽団、個性競う祝祭(音楽評)
4オケの4大シンフォニー2021

7回目となった「4オケの4大シンフォニー2021」は関西最強の祝祭として定着した。在阪の4大楽団が名シェフのもとで個性を競う夢の響演。満堂の熱気が奏者を鼓吹し、東京の音楽界が羨む共同体が生まれた(4月17日、大阪市のフェスティバルホール)。
日本センチュリーの首席客演指揮者に就任した久石譲によるベートーヴェンの第8交響曲は衝撃的な立奏。強靱(きょうじん)なアタックに確固たる意志が漲(みなぎ)り、推進力が半端ではない。久石は端正で優美な8番のイメージを刷新し、「運命」との連続性を際立てたが、白眉となる第3楽章中間部の超越的陶酔すらも拒んだのだろうか。
尾高忠明と大阪フィルによるショスタコーヴィッチの交響曲第5番は、大編成の底力を巧みに制御し、後半両楽章の対比が圧巻だった。寄る辺なき不安な森の中から大伽藍(がらん)が屹立(きつりつ)したが、その凱歌(がいか)によって抑圧の霧が晴れたわけではない。
陽光あふれるメンデルスゾーンの交響曲第4番「イタリア」が憂いを爽快に霧散した。大阪交響楽団を率いた大山平一郎は、羽毛のように柔らかな第3楽章で美質を発揮。内面の無垢(むく)から疾風怒濤(どとう)の終楽章へと、衒(てら)いのない音楽を丁寧に紡ぎ、共感を誘った。
飯守泰次郎による関西フィルのシベリウスの交響曲第2番は、一切の響きが充溢(じゅういつ)し、切れば血潮が飛び散るような躍動感に魂を奪われた。大胆な鋭角的切り込みが諸力の対立的調和を導き、雄渾(ゆうこん)な自然史のドラマが想像力の中で崇高な像を結ぶ。シベリウスがワーグナーとブルックナーの衣鉢を継ぐ宇宙論的スケールの作曲家であることを解き明かす歴史的名演。「4オケ」の卓越性と多様性から生まれる精神への刺激は計り知れない。
(音楽評論家 藤野 一夫)