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地域内需で町並み保存 醤油蔵のある城下町・龍野

時を刻む

コロナ禍を受けて従来の観光立国戦略は見直しを迫られているが、文化財を次代に継承するには保存と活用の両立が今後も欠かせない。オーバーツーリズムに陥ることのないよう生活環境を守りつつ、地域を活性化して歴史的町並みを保全するにはどうすべきか。兵庫県たつの市で新たな取り組みが始まっている。

たつの市の中央に位置する龍野地区は、鶏籠山(けいろうざん)と揖保川に囲まれた小さな平野に形成された城下町だ。旧武家地は明治以降に再開発されたが、旧町人地は古い町並みと約400年前の地割りを良好にとどめる。

時代の変遷映す

細い街路に軒を連ねる町家は18世紀から昭和前期まで約250年の時代幅を持ち、様々な伝統様式が混在する。1階は出格子を備えたり腰壁を設けたり。2階には漆喰(しっくい)の壁に虫籠(むしこ)窓や鉄格子窓。屋根に目をやれば本瓦(ほんがわら)葺(ぶ)きもあれば桟瓦(さんがわら)葺きもある。「軒裏も要注目。一軒一軒違うから」と京都府立大の大場修教授(建築史学)が教えてくれた。

龍野では16世紀に醤油(しょうゆ)醸造が始まり今もヒガシマル醤油などが市内で操業。散在する近代の醸造関連施設や洋風建築が景観にアクセントを加え、町並みは辻ごとに多彩な顔を見せる。

城下の絵図や改修・新築の普請願など町家の規模や外観に関する記録が多いのも龍野の特徴だ。大場教授は「変遷をこれほど具体的に明らかにできる城下町は他にないのでは」と話す。

情緒豊かな町並みは映画のロケが行われるなど古くから著名だが、意外にも国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)となったのは2019年12月で、つい先日のこと。重伝建制度が1975年に始まって間もなく選定を目指したが、その時は頓挫した。「バブルを背景に再開発への期待が一部にあり、住民の意見がまとまらなかった」と龍野町並み保存会会長の田中晋さん(74)は話す。

同地区は家屋が立て込んで駐車場などの余地に乏しい。かつては市役所や金融機関、商店が集積する市の中枢だったが次々と地区の外へ移転。にぎわいは失われ、地区の人口は30年間で約3割減った。

「町並みと生活を守るため、再び重伝建を目指して活気を呼び戻そう」。田中さんらは2011年、同地区まちづくり協議会に「伝建部会」を発足。家屋修理への公的補助など制度の説明に奔走した。当初は賛否が割れたが、自治会ごとに意見交換会を重ねるうちに理解が広がり、18年に市に提出した要望書には対象エリアとなる世帯主の約85㌫が賛同の署名を行った。

約50回に上った意見交換会ではっきりしたのが「人があふれる観光地を目指したいわけではない」という住民の意向。落ち着いた生活環境への思いは田中さん自身も強い。重伝建となった今「家屋を修理し町並みと今の暮らしを守りつつ、どう活性化するか。バランスの取り方が課題だ」と田中さんは話す。

地域の内需開拓

この難問に挑む一人が緑葉社社長(NPO法人ひとまちあーと代表理事)の畑本康介さん(38)だ。地域活性化の活動と共に地区内の空き家を買収、修理。オーナーとテナントを募集して管理を請け負い、5年間に20店以上を開店した。

業種は飲食に絞り、市内と近郊を商圏にランチとカフェタイムで稼ぐ。浮沈の激しい観光に頼らず地域の内需を掘り起こす。「コロナ禍の影響は最小限にとどまっており自信が深まった」と畑本さん。アフターコロナを見据え、ディナー客を開拓しようと宿泊施設の整備も進める。

隣市出身の畑本さんが龍野で活動を始めたのは学生だった約20年前。現在、まちづくり協議会や商店街で役員を務める上での信条は「過去の経緯を尊重しなければ地域と乖離(かいり)する。まちづくりに大切なのは否定ではなく継承だ」と話す。

(編集委員 竹内義治)

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