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「色気と情」伝え80年、文楽・人形遣いの吉田簑助引退へ

開催中の4月文楽公演「国性爺合戦」楼門の段、錦祥女を遣う吉田簑助(森口 ミツル撮影、国立文楽劇場提供)

人形浄瑠璃文楽の人形遣いで人間国宝の吉田簑助が引退する。国立文楽劇場(大阪市)で開催中の「4月文楽公演」(25日まで)が最後の舞台となる。1998年に脳出血で倒れるも翌年、奇跡的に復活を遂げてから20年以上。後遺症を抱えながら舞台に立ち続けてきた第一人者だが、今年8月に88歳を迎えるのを前に「人形遣いとして持てるすべての力を出し尽くし」たという思いに至った。

本人の意向で引退公演は行わない。近年は自身の当たり役を後進に譲ることが多かったものの、表現力には衰えが見えなかった。それだけに引退の報は多くの技芸員からも驚きをもって受け止められた。

発表後の週末、文楽劇場には簑助引退を知った多くの文楽ファンが詰めかけた。簑助は第2部「国性爺合戦(こくせんやかっせん)」楼門の段に出演中。生き別れた父と思わぬ再会を果たした武将の妻・錦祥女の切情を、簑助ならではの繊細な動きで伝えきると、客席からはさざ波のような拍手が広がった。

「曾根崎心中」天満屋の段で天満屋お初を遣う吉田簑助(2010年2月、国立劇場提供)

簑助は40年、三代吉田文五郎に入門。桐竹紋十郎門下となり、61年に三代吉田簑助を襲名。華やかさ、悲しさ、かれんさ、なまめかしさなど、文楽に登場する女性たちの多彩な「色気と情」を表現する随一の女形人形遣いとして活躍した。特に故・初代吉田玉男とのコンビによる「曽根崎心中」は屈指の名演として人気を呼んだ。

公私にわたり交流が深いエッセイストの山川静夫は「人形が本当に好きで、美しく見せたいという気持ちが誰よりも強い人。先人から受け継いだ芸に細かな工夫を加えて先へ進める努力を惜しまなかった。その工夫が自身の色気とも相まって、誰にもまねのできない表現に到達した」と評する。

一番弟子である桐竹勘十郎をはじめ、後進の育成に尽力したことも文楽界に残した大きな財産だ。以前、勘十郎に師匠・簑助についてたずねると「自分のやり方にはめずに、自由にやらせ、仮に遠回りでもそれぞれのやり方を見つけるのを見守ってくれる」と話した。簑助は引退後も門弟を見守ることで文楽界を支えていく。

(佐藤洋輔)

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