関西楽団、劇伴・ポップス音楽家への新曲依頼広がる
文化の風

関西の楽団が、映画やアニメなどの劇伴音楽やポップスの世界で活躍している作曲家に新曲を依頼する事例が増えている。異分野の音楽家による作品は、親しみやすいメロディーが最大の持ち味。クラシックコンサートの常連以外にもオーケストラの魅力を伝え、聴き手を広げる狙いだ。
耳なじみの良さが訴求力
日本センチュリー交響楽団は18日、東京都内のホテルで新曲「交響曲獺祭(だっさい)~磨migaki~」の演奏会を催した。緑豊かな山あいの自然を思わせるホルンの響きからはじまり、音律にはどこか日本的な情緒を感じさせる。クラシック音楽の愛好家だけではなく清酒愛好家なども駆けつけ、耳を傾けた。
同曲は、清酒「獺祭」で知られる山口県の酒造会社、旭酒造とのコラボでセンチュリーが作曲を依頼した。作曲者はアニメ「犬夜叉」などの劇伴音楽を手掛けた和田薫だ。
和田を選んだ理由について、センチュリーの望月正樹楽団長は「(映画『ゴジラ』などの音楽を手掛けた)師の伊福部昭の作風を受け継いだ和田は、和の風情を音に込めるのが得意。酒蔵のある山深い環境や、職人が手ずから行う日本酒造りの魅力を音にするには最適だ」と語る。「(劇伴音楽の世界で育まれた)耳なじみの良さは、クラシック初心者に訴求する力になる」という目算もあった。
センチュリーでは4月に宮崎駿監督の映画音楽の作曲で知られる久石譲が首席客演指揮者に、7月にコラボをきっかけに旭酒造の桜井博志会長が理事長に就任した。楽団の資金繰りが逼迫するなか、体制を立て直して新しい客層の開拓を急ぐ。
劇伴の世界で鍛錬
関西フィルハーモニー管弦楽団は10月の定期演奏会で、大河ドラマ「軍師官兵衛」などの劇伴音楽で知られる菅野祐悟のチェロ協奏曲を初演する。演奏するのは日本を代表するチェロ奏者の一人、宮田大だ。
関西フィルが菅野に作曲を依頼するのは、今回で3度目。首席指揮者の藤岡幸夫は「(菅野の音楽は)コンクールの審査員の目を意識していないからか、自由で新鮮だ。劇伴音楽の世界で鍛えたメロディーメーカーだからこそ、多くの人に愛される作品を生み出せる」と高く評価する。
「何度も再演にかけられる魅力的な新作こそが、演奏会に足を運ぶ力になる」という考えのもと、藤岡はさらに、30~40代の若手指揮者とともに新曲募集を計画中。クラシックや現代音楽に限らない、様々なバックグラウンドの作曲家の新作を求める。
京都市交響楽団は10月、ポップス音楽の作曲家である大島こうすけの交響組曲の演奏会を行う。
京響を擁する京都市音楽芸術文化振興財団は、4年前から大島に作曲を依頼してきた。5年前からはロックバンド、くるりのメンバーである岸田繁にも並行して作曲を依頼。大島と岸田が1年ごとに交互に制作した作品を京響が演奏し、毎年異分野の音楽家の新作が聴ける環境をつくる狙いだ。「固定のオーケストラファンは大切にしつつ、一方でオーケストラになじみの薄い層にもアプローチしたい思いがある」(同財団)
相次ぐ新曲依頼の背景には、楽団を取り巻く現状への危機感がある。「何度も演奏会で再演される新曲がずっと生まれていない。今だからこそ、という新鮮な音楽がなくては(オーケストラは)衰退する」(藤岡)。演奏会を活気づかせる新たな定番レパートリーがこれまで以上に求められている。
(山本紗世)