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太陽族×光の領地、日系米国人の苦難描く新作

文化の風

劇団太陽族代表で演出を手掛ける岩崎正裕

大阪を拠点とする2つの劇団、劇団太陽族と光の領地が共同で新作「イエロースプリングス」を上演する。第2次大戦中に米国で強制収容所に入れられた日系人たちの物語。日系人ジャーナリストが取材した実話を基に差別と苦難の歴史を描くべく、実力派劇団が手を組んだ。

「父さんもひきょう者だ!」。息子が父を組み伏せ、殴りつける。息をつくのもためらわれるほど張り詰めた空気の中、稽古が進む。

強制収容の記憶

第2次大戦終結から1年がたった1946年。米国オハイオ州の田舎町イエロースプリングスに暮らす日系人のサカイ家に、強制収容所に送られた記憶が今も深い影をおとす。今作はほぼ全編がサカイ家の室内で交わされる父シカオ(保)と次男ヒロシ(森本研典)の会話で展開する2人芝居だ。

劇作家で光の領地主宰のくるみざわしん

米国で生まれ育った日系2世のヒロシは米国への忠誠を示そうと入隊を志願。過酷な欧州戦線を生き抜いた。一方、シカオは家族を守れなかったと悔いながら、日米両国に愛憎半ばする思いを抱える。

自分たちを収容所に送った米国。勝ち目のない戦争に突き進んだ日本。かつて信仰の対象だった仏や天皇。強制収容への反省から日系人に住居を提供するキリスト教会。世界のうねりに翻弄されてきた2人のアイデンティティーがグラデーションを描き、互いの心情をぶつけ合う。稽古中「緊張が抜ける場面がなくて、ぐったり」とスタッフも声をそろえる。本番は濃密な90分間になりそうだ。

今作は光の領地代表で劇作家・精神科医のくるみざわしんが、日系米国人の歴史を取材したジャーナリスト、エィミ・ツジモトの話を基に脚本を執筆した。「当事者である日系人には強烈に記憶された歴史。日本に住み続けている我々はそれを自分の事として受け止められていない」(くるみざわ)。当事者の切実さに肉薄しようとシカオとヒロシの会話を紡いだ。

父シカオ(保)㊧と次男ヒロシ(森本研典)が激しく心情をぶつけ合う

光の領地はくるみざわが実質的に一人で演劇活動を行い、作品によって外部から演出家を招いた上演も行ってきた。今回は過酷な歴史をモチーフとするだけに「素材を大事にしたい。奇をてらわず背中をすっと押すように演出できる人に」と、太陽族代表の岩崎正裕に演出を託した。両者は個人とそれを取り巻く国家や社会の関係を扱う作品を多く手掛けてきた点で共通する。これまでも交流はあったが、両劇団による共同制作の本格的な演劇公演は今回が初めて。

現在の日本に通じる

岩崎はくるみざわを「人をつぶさに描ける劇作家。精神科医として働く日々の仕事のたまものだろう」と評する。今作も脚本通りに「2人の会話を素直に演出すれば、舞台には登場しない家族や街の人々、その外側の世界まで浮かび上がってくる」。稽古でも父子が対峙する会話の精度を高める作業に徹する。

今作では日米両国のはざまで揺れ動くサカイ家の複雑さが複雑なまま、それでいて観客にも飲み込みやすい形で提示される。「国家、宗教、戦争、差別、貧困。大きなたくさんの岩が何層にも重なり、人間を巻き込んで固まっている。触れて、その人を抱えあげてみたい」とくるみざわ。

岩崎は「日系人の苦難の歴史を自分含め日本人は知らなすぎる。歴史の無知は、逆に多くの移民を受け入れる側になった現在の日本の不寛容や差別の空気に通じている」と今作と2021年の日本を重ねる。

ウイングフィールド(大阪市)で25~29日に上演。映像配信も予定している。

(佐藤洋輔)

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