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「左手のピアノ」コンクールに世界初の作曲部門

文化の風

コンクールの実行委員長を務める智内はドイツ留学中に神経疾患で右手の機能の一部を失い、左手のピアニストとなった

大阪・箕面のピアノ国際コンクールで今年、左手だけで弾く曲の作曲部門が世界で初めて開設される。日本センチュリー交響楽団も左手のピアノ作品を委嘱新作し来年度初演する。けがや病気で右手の機能を失ったピアニストが演奏する「左手のピアノ」を一つの音楽ジャンルとして確立する動きだ。

作曲部門を新設するのは、12月に箕面市立メイプルホールで行われる「ウィトゲンシュタイン記念左手のピアノ国際コンクール」。左手のピアノに特化したコンクールで、開催は今回で2回目だ。初回は演奏者向けの部門しかなかったが、今回から作曲部門を新設した。

譜面と実演の審査を経て選ばれた大賞作と入賞作は、一般の人でも手に入れやすいよう楽譜を出版する予定だ。コンクールでは今後、2~4年に1度のペースで作曲部門の募集・審査を継続する。

コンクールの実行委員長で自身も左手のピアニストである智内威雄は、作曲部門を新たに設けた狙いについて「最大の目的はレパートリーを増やすこと」と語る。その言葉の背景には、過去に著名な左手ピアニストの死とともに曲が散逸した歴史がある。

左手だけのピアノ演奏で最も有名なのは第1次世界大戦に従軍して右手を失ったオーストリア出身のピアニスト、パウル・ウィトゲンシュタインだ。同姓の著名な哲学者の2つ上の兄にあたる。技巧の優れた片手のピアニストのために当時の作曲家は委嘱作品を数多く生み出した。だが、ウィトゲンシュタインや同時代の左手ピアニストには没後、後継者が現れず、多くの作品が埋もれてしまった。

左手のピアノ曲はそのほとんどが20世紀に作曲され、全部で3000曲以上あったといわれるが、今実際に演奏できる曲は少ない。左手のピアニストになってから楽譜を集め始めた智内は「100曲分ぐらいしか手に入らなかった」と語る。

そうした歴史から「左手のピアノというジャンルを確立するためには、曲を増やすだけでなく演奏家の裾野を広げなくては」との思いも生まれている。智内はコンクールと同時に、ピアノを始めたばかりの左手奏者が弾く初級レベルの作品を委嘱、出版する計画を進めている。左手のピアニストは多くが両手のピアニスト出身で、右手を失う前に演奏技術を身につけているため、技術を磨く課程で演奏できる簡単な曲がほぼないからだ。

もう一つ、左手のピアノの新曲を生み出そうという動きがある。日本センチュリー交響楽団が楽団員と左手のピアニストで演奏するための新曲制作を作曲家に依頼する。7月までにクラウドファンディングで作曲や演奏会などの費用を集め、来年度後半に行う主催公演で作品を披露する計画だ。

「ピアノソロに楽団員による三重奏や四重奏といった小規模な編成になるか、それともフルオーケストラ付きの協奏曲になるかは未定だ」(日本センチュリー)。初演公演では、過去に作曲された左手のピアノの協奏曲の実演を聴く機会になる可能性がある。「左手の協奏曲のうち、今も聴けるのはラベルとプロコフィエフくらいでは。途絶えた歴史を伝えることが聴き手の理解につながる」

「左手のピアノは片手の欠けた音楽ではなく、それ自体で完成した音楽だ。行間に富み、想像力を喚起する力がある」と智内は語る。左手のピアノ曲は、指の数と同時に音の数が半分となった代わりに、ペダルをほぼ踏みっぱなしで演奏できるようになった。ペダルによる倍音の効果で、楽譜に書かれていない音まで聞こえるといい、その豊かな響きが最大の持ち味だ。今年度から来年度にかけて続く演奏会で、違いを楽しみたい。

(山本紗世)

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