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鉄砲秘伝書に歴史ドラマ(展覧会評)

大和文華館「大人の嗜み」

「稲富流鉄砲伝書」(部分、1612年、大和文華館蔵)

天文12年(1543)に鉄砲が伝来し、これが全国に急速に広がっていった。そんな時代を背景に生まれたのが和流砲術の稲富(いなどめ)流であり、「稲富流鉄砲伝書」はその秘伝書である。

挿図にあげたのは大和文華館所蔵の「稲富流鉄砲伝書」のうち、慶長17年(1612)の奥書をもつ折本19帖(じょう)の中の一図である。

この金銀泥下絵は単に美しいだけではない。よく見ると図柄の中に源氏物語に由来するものが複数隠されている。例えば、桐(きり)の樹木の近くに壺(つぼ)を描き、「桐壺」を暗示するよう描かれている。見る者を知的に楽しませる下絵なのである。

では、鉄砲術秘伝書が何故このように美しく魅力的に作られたのか。その理由は、これが福井藩主松平忠直に伝授されたものだったからである。忠直は徳川家康の次男結城秀康の嫡男である。これは特注品の秘伝書だったわけである。

ではこの秘伝書を慶長17年に伝授された松平忠直は、その後どうなったのか。実は、忠直はこの3年後の大坂夏の陣で大きな功績をあげた。豊臣方の主力だった真田幸村を討ち取ったのは、忠直配下の鉄砲組頭だった。ところが忠直はその論功行賞に納得できず、幕府に不満を持つようになる。乱行も目立つようになる。その結果、元和9年(1623)に幕府から隠居を命じられ、豊後国に配流となった。この「稲富流鉄砲伝書」を得た忠直には、こんな未来が待っていたのである。

趣味や芸道の世界の一端を紹介する特別企画展「大人の嗜(たしな)み」が奈良市の大和文華館で開催中。2月14日まで。

(大阪芸術大学教授 五十嵐 公一)

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