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死守した「戦艦大和守護神」 艦長室にあったナゾの絵画 

時を刻む

日本画家、堂本印象が京都で描いたと見られる中期の作品「戦艦大和守護神」が約80年ぶりに里帰りし、京都市の堂本印象美術館で公開されている。「守護神」はこれまでほとんど公開されず、謎の多い作品だ。戦艦大和ゆかりの神社を描き、実際に大和艦長室に掲げられていたという。一体どのような経緯で描かれ、どのように戦火をくぐり抜けてきたのだろうか。

艦長室に掲げる

「戦艦大和守護神」は絹本着色の作品で縦101㌢、横48㌢。描かれているのは奈良県天理市の大和(おおやまと)神社だ。神社を空から見たような俯瞰(ふかん)的な構図をとり、墨の線による白描の手法で3つの本殿と神門を精緻に表現している。背景には青緑の木立を包み込むように金色の雲煙が描かれ、神秘的な雰囲気を醸し出す。

この絵を発注したのは旧帝国海軍だ。世界最大の戦艦を極秘に建造した海軍は、名称に奈良県の旧国名で日本の雅称である「大和」を推し、天皇の治定を仰いで決定した。軍艦には艦内神社を設ける慣例があったことから、大和を守る地主神ともいわれる日本大国魂大神(やまとおおくにたまのおおかみ)など3神を祭る大和神社の祭神を艦内神社に分祀(ぶんし)した。絵の発注は分祀に伴うものだったようだ。

ところがこの時、海軍は機密を守るため印象に直接発注しなかった。まず奈良県に依頼し、県が印象に発注した。堂本印象美術館の山田由希代主任学芸員は「印象は絵の目的や意味を知らなかったと思う」という。制作した場所も京都のアトリエで、資料の写真やスケッチを見ながらだったのではと見ている。

では艦内で「守護神」はどのような存在だったのか。「大和には長官室に横山大観の富士山の絵があったが、軍艦内の美術品は通常は鑑賞用。ゆかりの神社を描いた絵は珍しい」と指摘するのは呉市海事歴史科学館「大和ミュージアム」(広島県呉市)の戸高一成館長だ。戦艦大和への期待が大きかっただけに「霊験によって日本を守ってほしい、という思いが込められていたのだろう」と話す。

艦内神社は通路にあったという。神社といってもいわゆる神棚で乗組員なら誰でも参拝できたようだ。「守護神」は艦長室にあったが、絵を見た幹部の多くはゆかりの神社だと気付き「自然と頭(こうべ)を垂れたに違いない」(戸高館長)という。

数奇な運命たどる

その後「守護神」は数奇な運命をたどる。1945年4月、大和は天一号作戦のため山口・徳山湾沖を出航し、沖縄海上特攻に向かう。その直前、呉市周辺で調度品から絵画まで燃えやすい物を陸揚げしている。

ところが終戦後の10月から46年2月にかけて、呉市や江田島への進駐軍の上陸が本格化する。この時に「進駐軍が入る知らせを受けて、200点近くが宮島(廿日市市)や大三島(愛媛県今治市)、呉海軍工廠(こうしょう)職工共済会病院(呉市)に預けられた」と解説するのは呉市の美術館・資料館「松濤園」の竹内基子学芸員だ。接収の恐れがある大和の遺品を地元の人々が必死に守ろうとしたのだ。

「守護神」は共済会病院に移され無事に占領期を乗り切る。そして56年、当時の病院長によって、海上自衛隊第1術科学校教育参考館に寄贈される。こうした経緯もあり、これまであまり公開されてこなかった。

大和は鹿児島県坊ノ岬沖で沈没。乗組員3332人のうち3000人以上が戦死する。大和神社では毎年8月7日に「戦艦大和みたま祭」を行う。「生き残った乗組員の方々の参列は年々減り、ここ数年は1~2人。ゆかりの絵画によって大和への関心が高まり、慰霊につながればうれしい」(塩谷陸男宮司)と話す。

「守護神」を展示する特別企画展「生誕130年 堂本印象」は9月26日まで。絵と向き合うことは大和の悲劇や昭和の戦争を考える契機になる。

(浜部貴司)

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