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山本能楽堂が「スマホ能」 機能充実で若者や外国人に的

文化の風

山本能楽堂(大阪市)が動画配信で意欲的な企画に挑戦している。従来の舞台正面からの映像ではなく、スマートフォン向けに複数の高精細カメラで撮影。画面の切り替えを可能にした。大阪城など観光名所を舞台にした映像も制作した。スマホ向け機能の充実やインパクトのある映像で若者や外国人に能の魅力をアピールする。

カメラ3台で180度の映像

能楽堂が制作したのが「すまほ能」と題したスマホ向け動画。180度の高精細カメラ3台で人気演目の「安達原(あだちがはら)」(67分)と「羽衣」(58分)を撮影した。画面上で拡大・縮小ができ、180度の映像で舞台を広く見渡せる。右上に表示された「正面」「ワキ正面」「橋掛かり」のサムネイルをタップすれば異なるアングルの画面に切り替わる。

実際に視聴してみると、能楽堂の座席から見るのとは異なり、思うままに自由なスタイルで鑑賞できる。

例えば「安達原」でシテの女が山伏を残し野外に出る場面では、画面を拡大して足元に注目してみた。はたとすり足を止め「閨(ねや)の内ばし御覧(ごろう)じ候ふな(寝室を決してのぞくな)」と山伏に念を押す女。つま先をゆっくり上げ、そろりと歩き出す。「歩行の芸術」といわれるだけに足の動きを追うのも一つの鑑賞法だ。女が薪(たきぎ)を取りに行く次の場面では画面を「橋掛かり」に切り替えた。正面から見えにくいシテの動きが画面いっぱいに映し出される。すり足がスーッと速まり、吹っ切れた様子がわかる。

「若い世代が伝統芸能を体験するにはデジタルツールの充実が欠かせない。『能っていいね』と感じてもらいたい」。撮影を行ったアクチュアル(京都市)の辻勇樹代表取締役は話す。能の動画配信は以前からあるが、カメラ1台で正面から撮ったものや制作者本位で編集したものが目立つ。

「スマホの機能を駆使して自分の感性に合った、自分好みの映像を楽しんでほしい」というのは山本能楽堂代表理事で観世流能楽師シテ方の山本章弘氏だ。「能の魅力は舞台から発せられる『波動』がつくり出す臨場感。高精細の映像で『波動』が多くの人の心に届けば、生で見たいと思ってもらえる」と期待する。

別に「能面」と「能楽堂」を3Dスキャニングした特典映像も用意した。能面では「小面(こおもて)」「般若(はんにゃ)」の髪の生え際や顔の凹凸の精緻なつくりを楽しめる。能楽堂は足拍子を美しく響かせるために地下に置かれた12個の大きな甕(かめ)が圧巻だ。

「すまほ能」のチケットはホームページの特設サイトで購入できる。26日まで視聴可能だ。料金は1公演1800円(特典映像なし)などとなっており、通常公演(数千円)より安い。

太陽の塔、大阪城とコラボ

スマホ向けとは別に大阪府・市の許可を得て取り組んだのが名所を舞台にした撮影だ。太陽の塔で「石橋(しゃっきょう)」、大阪城で「高砂」を演じた。動画配信サービス「U-NEXT」と「観劇三昧」で英語テロップ版も含めた課金配信を14日以降に始め、3月31日まで視聴できる。

「太陽の塔も大阪城も強大でインパクトがある。『共演』することで大阪・関西万博に向けて一緒に盛り上げたい」(章弘氏)。太陽の塔ではドローンを使い空からの撮影にも挑んだ。

演劇評論家で明星大学人文学部の村上湛教授は「20~30代のファン開拓にはこうした試みも欠かせない。『珍しきが花』と言った世阿弥の精神にも通じる。『石橋』などは大自然が舞台なので野外では演出効果も期待できる」と指摘する。

一連の企画は文化庁の文化芸術収益力強化事業に採択された。補助金を受けられる分、視聴者の内訳等のデータを報告する。文化庁はデータを文化行政に生かす。今回の試みが成功すれば、新型コロナ禍の伝統芸能に動画配信のあり方を示す一つのモデルケースになりそうだ。

(浜部貴司)

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