米朝継ぐ正統派の品「二代目桂八十八襲名披露公演」

佳句も残した桂米朝。米の字をくずした「八十八」を俳号にした。その名を直弟子の宗助が継いだ「二代目桂八十八襲名披露公演」(8月29日、大阪市のサンケイホールブリーゼ)。口上で一門のざこばや南光、米団治らが口を揃(そろ)えて「師匠の芸を最も継ぐ男」と讃(たた)え喜んだ襲名だ。芸歴33年、一途に米朝落語の継承に励んで上方正統派の代表格になった孝行弟子。晴舞台(はれぶたい)に感慨と感謝がにじんでいた。
八十八が選んだ演目は「はてなの茶碗(ちゃわん)」。米朝の十八番だ。京一番の道具屋・茶金が眺め回した茶碗に目をつけた油屋がひと儲(もう)けを目論(もくろ)む。だが、ひびもないのに水がもるキズもんと知って落胆。ところが、茶碗はやがて千両の値打ち物になる――。
時の帝まで登場するスケールの大きな噺(はなし)。八十八は鍵となる茶金の風格や度量を米朝彷彿(ほうふつ)の懐深い端正な語りで描き、はんなりした空気で物語を包みこむ。同時に、場違いなほど対照的な大阪もんの油屋の人間味を際立たせて巧妙。浅はかな欲に恥じ入り茶金に畏れ入り、怒ったり喜んだり。上下する気持ちも庶民のかわいさで届け、共感も笑いもたっぷりに名品の面白さを満喫させた。
八十八はたまにまくらで楽しませる米朝の声色も絶品。真似(まね)るは学ぶに通じ人一倍の敬愛の証でもあろうか。師匠が伝えた落語のほとんどを品と味わいも含めて継ぐ。関西の見巧者に愛されてきたが、これからは二代目八十八の看板で全国に広めていける。
一方、繁昌亭ができて15年間の入門者は約80人。多くは米朝を直に知らず、そうした若手世代が台頭する上方落語界においても本流の砦(とりで)になるはずだ。謙虚な達人の背を押した襲名は喜ばしい大きな一歩なのである。
(演芸ジャーナリスト やまだ りよこ)

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