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思い出の8ミリフィルム、アイロンで修復

匠と巧

アイロンで変形したフィルムを延ばしていく=大岡敦撮影

8㍉フィルムに記録された昔懐かしい家族の姿をもう一度見たい。映画などのフィルム修復やアーカイブ化を手掛ける吉岡映像(京都市)には、全国からそんな思いのこめられたフィルムが次々に送られてくる。過度に熱が加われば伸びて使えなくなるフィルムにアイロンをあてる繊細な作業が多くの思い出をよみがえらせている。

白い粉がふき、表面が波打ったフィルム。一口に劣化フィルムといっても「保存の状態や期間はもちろん、家庭用8㍉から商業映画の35㍉、メーカーやモデルによっても千差万別」と同社代表の吉岡博行さん。

劣化状態を見極める手掛かりになるのが臭いだ。酸っぱい臭いが強ければ「劣化が始まっているが、修復できる可能性がある」(吉岡さん)。フィルムの劣化は湿気や熱によって酢酸化する仕組みで、臭いは反応が進行中の証。この臭いが弱いとすでに修復不能な段階まで進んでしまった可能性もある。臭いの強弱や保存状態の情報などを基に全編を元通り映写機にかけられるように直すか、再生可能な部分を数コマずつ切り取って画像として残すかなどを決める。

吉岡さんがアイロンの熱や圧力を調整し、慎重にアイロンをおろす。じわっと圧力をかけ、ゆっくりとすべらせていくと、表面にあった粉状のにごりは消え、波打ったフィルム表面が平らになって光を均一に反射し艶が出たように見える。

吉岡さんの下には様々な劣化したフィルムの修復依頼が来る=大岡敦撮影

アイロンの温度は100度が基本。2~3度高ければ「8㍉フィルムが7㍉フィルムや6㍉フィルムに」収縮し二度と元には戻らない。過去の似た状態のフィルムを念頭に微妙な調整を加えている。これまでに数千本をゆうに超える修復を手掛けたという吉岡さんでも、失敗の可能性が頭をよぎり「やりたくないなと思ってしまう」ことも。

幼いころからカメラを手にし、フィルムに親しんできた吉岡さん。プロカメラマンとしても活躍したが、長く保存できると信じられていたフィルムが劣化によって失われていることを知り、独学で修復方法を研究。約20年前から修復に専念し、東日本大震災などの被災者のフィルムを修復する活動も続けてきた。人の思いが詰まった家庭用フィルム修復への思い入れは強いが、近年は企業や公的機関が文書や記録保存用に使うマイクロフィルムにも修復需要が広がっている。

映画界ではフィルムのコマごとにデジタル撮影し傷や色を補正する方法などでのアーカイブ化が進むが、家庭用フィルムなど多くの場合、そこまでのコストはかけられない。そこで、吉岡さんが磨いてきたのが身近にあるアイロンを使いながら、繊細な技術でフィルムを修復する方法だった。

作業場には、長年続く超有名シリーズ映画の35㍉フィルムも修復を待っていた。かつて商業上映にかけられていたフィルムをマニアが収集したものといい「多少の退色はあってもフィルムで鑑賞したいというファンの思いは根強い」。デジタル技術でクリアにした映像では呼び起こせない名作の味わいもアイロンによって再生させている。

(佐藤洋輔)

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