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差別への抵抗、現代に響く(演劇評)

兵庫県立芸術文化センター「キオスク」

フランツ役の林翔太㊨とフロイト役の山路和弘=岸隆子撮影

危機的状況下で、生きる指針をどう見出(みいだ)すのか。「キオスク」は、ナチスの台頭するオーストリアを舞台にした作品だが、様々な人物の葛藤の描写が鮮明で、緊急事態の渦中にいる現代人の心に響く舞台だ(1月22日、兵庫県西宮市の県立芸術文化センターで所見、ローベルト・ゼーターラー作、石丸さち子演出)。

湖畔の村出身の17歳のフランツ(林翔太)が、片足の傷痍(しょうい)軍人・トゥルスニエク(橋本さとし)の経営するウィーンのキオスク(煙草店)で働き始める。世間知らずの彼は、店主から新聞を読むことを習い、客のフロイト(山路和弘)から人生を学ぶ。だがナチスに反発する店主は獄死、ユダヤ人のフロイトは亡命、初恋の人・アネシュカ(上西星来)は、ナチス親衛隊員の愛人になる。

小説を作者本人が戯曲化。場面は湖畔、都会の雑踏、店内など次々に移り、文体も対話、母(一路真輝)との往復書簡、ナレーションが交錯する。素舞台から始まり、俳優達が装置を移動、スムーズに展開した。

少年の成長と、大人達(たち)の人生の決断を描写。権力におもねる者と、正義を貫く者。生きるために男を選ぶアネシュカ。最後にフランツは鉤十字(かぎじゅうじ)旗を降ろし、店主の遺品のズボンを掲げることを決断する。ナチスへの命がけの反抗。風になびく片足のズボンの先が示すのは、遠い未来への希望か。悲運の中、生きる指針を見出した人物像を俳優達は緻密に溌剌(はつらつ)と演じた。

数年後、連合軍の爆撃の中、アネシュカが路上のごみ箱に飛び込む。彼女だけは何としてでも生き延びる。希望を残すが、直後に轟音(ごうおん)と破壊音が響き、暗闇、無音に包まれる。もし今度大戦が起きたら、地球は「無」になると実感させる、鮮烈なラスト。分断が進み、世界が苛立(いらだ)つ今、私達は何を目指すのかを問い掛けた。

(大阪芸大短期大学部教授 九鬼葉子)

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