/

著名作家育つ大阪文学学校、記者が体験

とことん調査隊

1954年の創立以来、数多くの著名作家が輩出してきた大阪文学学校(通称文校)。故・田辺聖子さんや本紙で「秘密の花壇」を連載中の朝井まかてさんも文校出身だ。名だたる作家が育つ秘密を知りたいと、大阪市中央区の空堀商店街近くのビル内にある文校を訪ねた。

どんな授業なのか、文校OBでチューターと呼ばれる講師経験もある事務局長の小原政幸さんに聞くと「こうすれば売れる小説が書けるとか、ノウハウを教える場所ではなく、学生の作品を他の学生やチューターが批評する『合評』が最大の特徴です」との答え。体験したいとの申し出を快諾していただいた。

参加したのは入校間もない人から2年程度までの人が集まるクラス。金曜午後2時、会議室に30代から70代まで10人強が車座になった。日程によっては10代の参加者もいるという。男女比は女性が多め、リモート参加も数人いる。

早速、事前に提出された作品を読み込んできた面々が意見を述べていく。「序盤は読点が多くて、読みづらい。この部分は作者が乗り切れていない」との批評に、作者の峠早希さんは「書き出しが苦手。それを見抜かれてしまった」。文章の構成の問題点から登場人物の名前の付け方まで、表現の違和感や改善案もかなり細かな指摘が出る。

文学観、人間観などについては時に激しい応酬が。摂食障害がある女性と窃盗癖のある女性の関係性を描いたのは提出5作目という40代女性による作品。男性からの「女性の感覚はよくわからない」との声に対し「女性には『あるある』ばかり」と真っ向対立。作中にある女性同士による性描写について「性行為なしに人はつながれない」との意見には「ここに描かれているのは性よりも、2人が与えられなかった母の愛を求める母性のやりとりではないか」との深い読解も示される。

「きれいな文章だがトゲ不足、もっと内面を描ける」という厳しい批評には、チューターが「人は孤独だけど『孤独はすてきなもの』と価値転換できるのが小説のいいところ。この作品はすてきに転換できているのでは」と受ける場面もあった。

ピリッとしつつも親密な雰囲気は、全員が作品を書く側でもあるからこそだろう。作品を提出していない記者は安全地帯から発言しているという引け目がどこかに引っかかっていた。1作品に約2時間、毎回2~3作を扱うクラスが終わった午後6時には心地よさを伴う疲労が残った。

朝井まかてさんは合評について「おめでたい自信をぺしゃんこにされて吐く息、それでもまた次に挑もうと奮い立つ眼差(まなざ)し。現代では生々しく、濃過ぎる場かもしれない」と書いている。「かしこまらないからこその真剣勝負。この距離感は大阪ならではのもの。ワイワイがやがやしたコミュニティーこそが文校を形作っているとみんなわかっているし何十年もそれを受け継いできた」と小原事務局長。

近年ではネットも小説発表の場として定着したが「好きなジャンルや年齢層などが近い人たちが集まるネットに対し、文校は性別も年齢も背景も多様。普段想定しない読者にどう読まれるか、狙い通りに伝わったかを知ることができる」との声もあった。

「芥川賞、直木賞作家が育った」という実績に興味をひかれて始めた今回の取材だったが、合評体験を通じて、創立以来1万3千人以上が修了したという事実こそ、文校の功績ではないかと思わされた。60年以上にわたって、書くこと、読むことの鍛錬にこれほどじっくり取り組んできた学校は日本でも数少ないだろう。あの濃密な合評を通じて、書き手としてだけでなく、よき読み手として送り出された人たちの存在は大阪の文化を底上げしたはずだ。

(佐藤洋輔)

春割ですべての記事が読み放題
今なら2カ月無料!

セレクション

トレンドウオッチ

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

新着

ビジネス

暮らし

ゆとり

フォローする
有料会員の方のみご利用になれます。気になる連載・コラム・キーワードをフォローすると、「Myニュース」でまとめよみができます。
春割で申し込むログイン
記事を保存する
有料会員の方のみご利用になれます。保存した記事はスマホやタブレットでもご覧いただけます。
春割で申し込むログイン
Think! の投稿を読む
記事と併せて、エキスパート(専門家)のひとこと解説や分析を読むことができます。会員の方のみご利用になれます。
春割で申し込むログイン