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緻密の刃、1000分の1ミリ譲れない 電気シェーバー

匠と巧

多くの男性が毎朝お世話になっている電気シェーバー。実は最も精巧な技術が求められる家電の一つといわれる。肌にあたる「外刃」には千を超える微細な穴が寸分の狂いなく並ぶ。鋭いそり味でヒゲを切りながら、肌を傷つけない絶妙な刃には1000分の1ミリ単位の作業を繰り返す職人の技が欠かせない。

パナソニックは電気シェーバーで国内シェアトップをほこる。中国で生産する部分もあるが、切れ味の要ともいえる先端の刃の多くは滋賀県彦根市の工場で作っている。開発部の平塚真康さん(62)はその刃を生み出す金型を手掛ける。

特に加工が難しいのは、縦19ミリ、横45ミリの大きさの中に1200~1500個ほどの穴が空いた外刃。電気シェーバーを「技術と技能の塊」と呼ぶ平塚さんの神髄が詰まっている。

一般的に刃には柔らかいニッケルを使うことが多いが、パナソニックでは日本刀にも使う国産の安来鋼を使用。耐久性が高いステンレスからできている。電鋳と呼ばれる電気化学反応を利用して作るケースもあるものの、そり味がより鋭いと判断してプレス加工を選んだ。

外刃の穴の直径は0.3~0.5ミリで、鋼の厚さが場所によって変わる。例えば上位機種では60ミクロン(ミクロンは1000分の1ミリ)の箇所とヒゲをすくいやすくする41ミクロンの箇所が交互に並ぶ。そのための金型を作る必要があるが、あまりに微細のため「市販されている切削器具がない」(平塚さん)。金型作りは工具作りから始まる。

直径3ミリほどの金属棒を削り、細くとがらせて工具とする。先端は髪の毛と同じ程度の数十ミクロン。途方もなく小さい世界を顕微鏡でのぞき込み、砥石との角度や距離を手作業で調整して完璧な一点を探っていく。最新の機械でも難しく、20~30年の経験がないとできないという。

ただ、より時間がかかるのはこの先だ。工具を操り、金型を削る作業が待っている。微細な工具を取り付け、プログラムした図面通りに削る機械はあるが、正確な位置に金型を設置するのが至難の業。その日の温度で機械の金属が伸び縮みし、ごくわずかに台座がずれてしまう。平塚さんは特殊な技術で測量しながらミクロン単位で狂いをなくす。一つでも穴を打ち抜く凹凸がずれれば、やり直しとなる根気がいる作業だ。

「1ミクロンの精度は譲れない。2ミクロンでは大きすぎる」。一度作った金型はおよそ1年間、数百万個の外刃を打ち抜くことになる。少しでも誤差があれば多くの製品が不良になり、金型自体が生産の途中で割れる恐れもある。細心の注意を払いながら検定を繰り返し、一つの刃の金型が完成するのには約3カ月かかるという。

工芸品のような手間をかけた電気シェーバーだけに機能には自信がある。「ただ、大変さがなかなか伝わらないんです」と笑う平塚さん。次にヒゲをそる機会には、ぜひ外刃の微細な世界に目を向けてみてほしい。(平嶋健人)

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