形が崩れないソファに和の技術(古今東西万博考)
2010年・上海

おにぎりのようなソファ――。2010年の上海万博の大阪館では、片手で持てる、形が崩れないクッションソファ「テトラ」が話題となった。手掛けたのは90年以上の歴史を持つ京都の老舗企業。日本の中小企業の技術を世界に広めた。
出展したのは、1925年創業の大東寝具工業(京都市)だ。ソファに座ると、体重の重みで中身にある発泡ビーズが体形に合わせて変化する。背もたれが自然に生まれる。重さも当時の類似製品の4分の1程度だ。
「ビーズクッションははやっていたが、使いやすさを追求した」と大東利幸社長は話す。カバーの柔らかさにもこだわった。本業は高級ガーゼパジャマの製造販売。日本に数台しかない和晒窯(わざらしがま)でガーゼを4日間精練し、不純物を取り除き、職人が手作業で一枚一枚縫い上げる。柔らかく着心地が良い。同じような製法でソファのカバーをつくった。
万博では「実際に座って体験できるため、予想外に反響が大きかった」と振り返る。展示は5日間の期間限定だったが、約1万5千人が来場したという。国内のみだった販路が海外に広がった。上海の現地百貨店や日系スーパーに加え、越境EC(電子商取引)も展開した。高価格帯の商品だが、富裕層などを中心に日本製を好む消費者が増え、知名度が上がった。
アジアや欧州の展覧会から声がかかり、10カ国以上で販売する。新型コロナウイルスの感染拡大前には「京都観光の際、わざわざ本店で買い求める海外消費者もいた」。25年の国際博覧会(大阪・関西万博)に向けて新たな製品を考えている。(松本晟)