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30年越しの開館、美術史に大阪の視点を 菅谷富夫さん

関西のミカタ 大阪中之島美術館長

すがや・とみお 1958年千葉県生まれ。90年に滋賀県陶芸の森学芸員。92年から大阪市立近代美術館建設準備室学芸員として作品収集や施設構想に携わる。2019年から現職。専門分野は近代デザインや写真、現代美術。

■2022年2月に開館する大阪中之島美術館(大阪市)の菅谷富夫館長(62)は約30年間、この施設の完成のために尽力してきた。市がイタリアのモディリアーニや大阪出身の佐伯祐三など6000超のコレクションを持ちながら、開館が何度もずれ込んだ経緯があるからだ。

1983年に佐伯祐三などの作品群が大阪市に寄贈されたことを契機に、市制100周年(89年)記念事業として美術館構想が始まった。時代はバブルで、計画していた規模も現状の1.5倍くらい。作品収集にも年間で最大約30億円を使うなど、地方自治体としては破格の資金を投じてきた。私が美術館建設の準備室学芸員に着任したのが92年だが、「これまでにない美術館ができる」とワクワクしたのを覚えている。

ところがバブル崩壊や財政難で計画は延期に。「30年も何をしてきたのか」とよく言われるが、30年前と同じものをつくろうとしてきたわけではない。

橋下徹元市長からは「再検討を」と言われた。運営方式も民間の視点やノウハウを入れるモデルがないか勉強し、最終的にはPFI(民間資金を活用した社会資本整備)コンセッション方式を美術館で初めて取り入れた。運営もすべて民間に任せて、着実にお金を稼いでいく。常にその時代に合った美術館を模索してきた。

■大阪中之島美術館の運営方針の一つは、大阪に関わりのある近代・現代美術の作品や資料の収集だ。

近現代の大阪の作品を扱う美術館は少ない。だから大阪の画家は長く生まれ育った土地で展覧会ができてこなかった。一方で、これだけの経済規模があり、画家もコレクターもいる大阪で独自の芸術が生まれないはずがない。例えば(前衛美術集団の)具体美術協会のメンバーで、美術学校を卒業したのは数人だけ。戦前の大阪では全国でも珍しく女性画家も多く出ている。大阪の紙問屋の息子の安井仲治は家業をしながら、アマチュアとして写真を極めた。

「常に新鮮な展示ができるように見せ方を工夫していきたい」と話す

大阪的な新しい美術の視点を提示することが中之島美術館の役割。大阪の美術はないがしろにされてきた面もあるが、東京中心の見方だけが日本の美術史ではない。開館後は1~2年のうちに大阪に焦点を当てた展覧会を企画し、皆さんに大阪の作家を知るきっかけをつくる。

「アーカイブ」機能にも力を入れる。うちには具体美術協会だけでも、記録フィルムなど段ボール200箱分の資料がある。将来の研究者が見た時に「この作品のルーツはこれか」など、新発見や再評価につながるかもしれない。

珍しい取り組みとして、大阪の家電企業のデータも集めている。さまざまな角度の製品写真や販売情報を記録している。売れない製品は歴史に残らないが、そうした商品が未来の製品のヒントを含んでいることもある。美術館がプラットフォームになれば企業の枠を超えて情報を整理できる利点がある。

■新型コロナウイルス禍で美術館の構想も変化している。

しばらくはインバウンド(訪日外国人)の大きな需要が期待できなくなった。「いちげんさん」とも言える旅行客には、同じ展示が続く方が魅力的だが、入場者数を確保するためには、地元や国内の人にリピーターになってもらうことが必要だ。

当面は常設の展示室は設けず、切り口を常に変えながらコレクション展示をしていきたい。例えば佐伯祐三にしても、「大阪出身」「東京美術学校(現・東京芸術大学)の卒業生」「1920年代にパリで活躍した日本人画家」など色々な切り口がある。常に新鮮な展示ができるように見せ方を工夫していきたい。

(聞き手は平嶋健人)

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