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「ごちゃごちゃ」こそが大阪 社会学者・作家 岸政彦さん

関西のミカタ

きし・まさひこ 1967年生まれ。2017年立命館大大学院教授。沖縄、生活史を研究。著書に「同化と他者化――戦後沖縄の本土就職者たち」「マンゴーと手榴弾――生活史の理論」など。16年発表の初の小説「ビニール傘」が芥川賞候補に。

■社会学者で立命館大大学院教授の岸政彦さん(53)は、作家としても大阪で暮らす人々を描いた哀感漂う作品を発表してきた。大阪に住み始めたのは関西大に入学した1987年。作家の柴崎友香さんと今年1月に出したエッセー集「大阪」では、当時のきらびやかな雰囲気を振り返りつつ「この三十年で完全に没落してしまった」と嘆いた。

大学に入ったころはバブル真っ盛りで、とにかく景気が良かった。学生時代からジャズのベーシストとして活動し、客がゼロでも一晩で1万円もらえた。客の入りによっては数百円にしかならない今とは全然違った。当時は週3回演奏すればそれなりの収入になり、アルバイト代や親からの仕送りもあったので毎晩ミナミで飲み歩いた。

90年代に景気が悪くなり、通っていた書店やCD店、映画館、ライブハウス、小劇場などが次々に消えていった。自分自身も大学院に落ちて、日雇いで建設現場などの仕事をしていた時期だ。1日に1万2千円もらえたのが、1万円になり8千円になり、最後は6500円。研究者としての展望も開けず、自分の将来と大阪の衰退が重なって見えた。

■インバウンド(訪日外国人)の増加などを背景に、大阪の経済・産業はここ10年ほど回復傾向にあったとされる。有効求人倍率が上昇するなど、雇用関連の指標も改善した。

もうかった人もいるのだろうが、私自身は「成長」の実感はない。タクシーに乗っても、繁華街で飲んでも景気のいい話は聞かなかった。大阪は産業構造の転換が遅れ、東京や名古屋に取り残された。街はきれいになったかもしれないが、できたのはコンビニやチェーンの居酒屋ばかり。再開発は必要な場合もあるが、昔ながらの路地裏の店をつぶして大きなビルを建てるのが成長だろうか。

ジャズのベーシストとしても活動している

ミュージシャンもここ10年ほどで多くが東京に移った。2月に出した小説「リリアン」は食えなくなっていく大阪のミュージシャンの話。あまり語られないリアルな大阪、さみしい大阪を描きたかった。

■大阪のことを考えるとき、1958年1月の新聞に載ったある記事をいつも思い出すという。「この子たちの親を探そう」という特集で、梅田で親とはぐれて保護された子どもや、十三の映画館で隣の席の見知らぬ人に預けられて母親が姿を消した赤ん坊の話などを紹介。身寄りを探そうとする記事だ。

大阪は戦前から、朝鮮半島や沖縄などから貧しい人が移り住んできた都市。自由で、気取らないざっくばらんな雰囲気はおそらくそういった成り立ちに由来している。その裏には暴力や差別、貧困もあり、つい60年ほど前には映画館で隣に座った人に赤ん坊を押しつけて逃げるようなできごとがあった。

一方で組織に頼らず、自分の腕一本で生きていこうという人たちは街の活力になってきた。今も自営業、特に飲食業などでは地方から出てきて一旗揚げようという人が多い。大阪の魅力は個人の力だと思う。

インバウンドが魅力を感じたのも新しい商業施設ではなく、道頓堀のようなごちゃごちゃした地域のはず。今風のものを「造っては壊し」するより、お金をかけて古いものを残したほうがいい。

ニューヨークなども古いものを大事にしている。大阪では(リニューアルした)大阪市中央公会堂が成功例。谷町周辺も長屋を改装しておしゃれな雰囲気になった。ほかの地域でも補助金を出すなどしてリノベーションを進めたらいい。空き物件があるなら店でもやってみようかと若い人が思えるような街であってほしい。(聞き手は覧具雄人)

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