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流路変更の痕跡たどる 大和川、2度の工事で大阪湾へ 

時を刻む

大和川は奈良盆地で一つになり、大阪平野に流れ出る。かつては低地で分流し氾濫を繰り返したが、約300年前、淀川に合流していた流路を大阪湾へと付け替えた。実は付け替えは約1200年前にも企図されたが、未完に終わった。これらの治水の痕跡は現在の地形にも残り、そこから先人の執念や思惑がにじんで見える。

大和川は1704年(宝永元年)、現在の大阪府柏原市付近を起点に付け替えられた。北に流れていた川をせき止め、約14キロの新たな流路で西の堺へ。工事には延べ280万人が動員され、8カ月間で完成した。

治水の歴史学ぶ

柏原市立歴史資料館の安村俊史館長によると、新旧流域に近い小学校では、身近な歴史教材として大和川の治水を学び、同館が毎年開催する特別展には例年、100校余りが訪れる。

大阪は古代から水害に悩まされてきた。生駒山地と上町台地の間に広がる低地(河内平野)は、かつて入り江だった。淀川や大和川の運ぶ土砂で平野が形成され、肥沃な土地となる一方、南北に延びる上町台地が西への水の流れを阻み、氾濫が繰り返された。

「大和川を大阪湾に流せば水害が減り、収穫も増える」。付け替えの50年ほど前から、農民らは江戸幕府への嘆願を重ねた。だが、土地を失う地域の反対は強く、幕府も当初は「付け替え不要」と却下。6度目の嘆願でようやくかなった。

実はさらに遡ること900年余り前、788年(延暦7年)にも、同様の目的で上町台地の西側への導水路が計画されている。

工事を指揮したのは和気清麻呂(733~799年)だ。皇位を狙ったとされる僧侶、道鏡を宇佐八幡宮(大分県宇佐市)の神託で退けた一件で有名だが、後半生では桓武天皇の信任を受け長岡京、平安京への遷都を主導。「現代でいえば都市プランナー」(安村さん)のような人物だった。

続日本紀によると、清麻呂は淀川の分流(旧神崎川)を開削した3年後、当時の大和川を大阪湾に導く水路の開削を提案した。洪水を防ぎ、耕地を開墾するほか、淀川の水運を改善する狙いがあったとみられる。

延べ23万人を動員した工事は、固い地盤に阻まれ未完に終わったが、水路の痕跡は現在の地形にも残る。

水路痕跡たどる

茶臼山(大阪市天王寺区)は徳川氏が豊臣氏を滅ぼした大坂冬の陣、夏の陣の激戦地だ。この南にある河底池(こそこいけ)は清麻呂の工事の跡だという。西側は崖地で、眼下に天王寺動物園や新世界の街が広がる。

四天王寺大(大阪府羽曳野市)の元准教授、川内眷三(けんぞう)さんは、市街地化前の明治初期の地形図や江戸中期の古地図を分析し、工事跡を特定している。

川内さんによると、水路は大阪市東住吉区桑津からJR寺田町(同市阿倍野区)を経て河底池に至る。約3キロのルート周辺には堀越、河堀町、河堀口(こぼれぐち)などの地名が伝わる。上町台地の尾根である谷町筋に近づくと、南北どちらを見ても高さを感じるくぼ地で、難工事の痕跡を実感できる。

柏原市立歴史資料館によると、江戸期の計画を示した絵図の中にも類似のルートがある。「当時の農民も清麻呂の工事は知識としてあったようだ」と安村さん。発想を参考にしつつ、より現実的な南側のルートを選んだのだろう。

宝永の付け替えでは旧流路で新田を開発。失われた土地の約4倍、約1050ヘクタールを創出した。幕府は諸藩と工事を分担し、幕府負担分の工事費は新田開発の権利の入札で得た資金で賄った。厳しい財政状況の中、いかに治水対策をなし、経済に生かすか。鼻のきく施政者の知恵を感じる。

旧流路は低地ゆえに緩やか。河床に土や砂が蓄積しやすく、周辺の土地より高い天井川だった。その痕跡は今も多くの場所で確認できる。「旧堤防に神社や墓地が残り、旧河床のまとまった耕地の跡には工場や学校が多い」と安村さん。

これらの治水の痕跡が語るのは、河内平野の低地部の地形に潜在する水害のリスクだ。清麻呂の導水路をたどった川内さんは「古代の治水事情の背景は、脈々と今につながっている」と警鐘を鳴らす。胸に刻むべきだろう。(影井幹夫)

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